グルタミン欠乏が低栄養状態のがん組織で悪性化に関連
東京大学先端科学技術研究センターは10月2日、低栄養状態のがん組織で栄養飢餓の中でも特にグルタミンの欠乏ががんの悪性化に関わり、がん細胞が栄養飢餓に対して耐性を獲得するメカニズムを明らかしたと発表した。この研究は、同センターニュートリオミクス・腫瘍学分野の大澤毅特任准教授、名古屋大学大学院医学系研究科システム生物学分野の島村徹平教授、慶応大学先端生命科学研究所の曽我朋義教授、東京大学の児玉龍彦名誉教授らによって行われたもの。研究成果は、電子ジャーナル「Cell Reports」に掲載された。
画像はリリースより
これまで研究グループは、固形がんの中心部が低酸素・低栄養・低pHに陥りやすく、この特徴的ながんの微小環境が、がん細胞のエピゲノム変化、エネルギー代謝変動、転移・浸潤能などを促進し、がんの悪性化や治療抵抗性など予後不良に寄与することを報告していた。今回の研究では、栄養飢餓中のアミノ酸欠乏状態におけるがん細胞の代謝変動を予測するために、栄養飢餓状態を模した培養系を用いて、がん細胞に対しトランスクリプトームおよびメタボロームの網羅的オミクス統合解析を行った。
がん細胞内にエタノールアミンリン酸を蓄積し栄養飢餓耐性を獲得
解析結果より、がん細胞がグルタミン欠乏に対して、がん代謝物「オンコメタボライト」のエタノールアミンリン酸を特異的に蓄積することを見出した。また、培養細胞と実験用マウスを用いた解析から、グルタミン欠乏に応答して細胞膜リン脂質(PE)合成経路の律速酵素PCYT2の発現が低下することが明らかになった。これらの結果より、低栄養状態のがん組織は、PE合成経路の中間代謝物であるエタノールアミンリン酸をがん細胞内に蓄積することにより、栄養飢餓に対する耐性を獲得し、患者予後に関与することがわかったという。
今回の研究は、栄養飢餓の中でも、特にグルタミン欠乏ががんの悪性化に関わることを初めて示唆するものだ。近年、がん研究においてアミノ酸代謝異常の重要性が注目されているが、同研究成果によって、グルタミン代謝異常をはじめとする栄養学の視点から、新たながん治療法を確立する必要性が示された、と研究グループは述べている。
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・東京大学先端科学技術研究センター プレスリリース