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数分で臓器保存液を生成し、心停止後ドナー臓器の蘇生に成功-慶大

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2019年10月04日 AM11:45

機能不全の発生率が高いマージナル臓器

慶應義塾大学は10月2日、臓器保存液の中に速やかに水素ガスを圧入することにより、血流循環停止後、ある程度時間が経過した傷害臓器の蘇生に成功したことを発表した。この研究は、同大医学部の小林英司特任教授、同内科学(循環器)教室の佐野元昭准教授らの研究グループが、株式会社ドクターズ・マンとの共同で行ったもの。研究成果は、米国科学誌「PLOS ONE」オンライン版に掲載された。


画像はリリースより

心停止したドナーから摘出した「」の移植成功率の引き上げは、臓器提供者不足を補い、移植待機期間を短縮させるための重要な課題となっている。しかし、ある一定時間以上体内で循環停止状態にさらされていた臓器は細胞の壊死が始まっており、摘出後、移植手術が行われるまでに、移植に適さない臓器になることが多くある。

これを防ぐため、摘出後ただちに臓器保存液中で冷却し保存をするが、移植して血流を再開すると、凍結保存されたマージナル臓器は虚血再灌流障害による損傷を受けやすく、機能不全の発生率が高くなる。これがマージナル臓器の移植における大きな障壁となっていた。現在、臓器保存液は開発されたものの、体外に取り出した障害臓器を移植可能な臓器へと十分に蘇生させるレベルのものではなかった。

臓器保存液容器内に高濃度水素ガスを、瞬時に圧入する機器を開発

近年、水素ガスには、さまざまな生体反応を起こす作用があることが明らかにされ、有効性を検証する臨床試験も行われている。特に、臓器移植の分野でも、水素ガスが移植後の臓器機能の回復を向上させることが動物実験で示されている。肺の場合を除き、臓器は水素ガスを溶解させた保存液に浸すことにより、水素ガスに暴露させる。摘出した臓器の保護は迅速に行われなければならず、ドナー病院において短時間で水素含有保存液を作製することができる簡便な技術の樹立が求められていたが、現在の臨床現場で、常に水素ガスボンベを搬入することは困難だ。また、電気分解装置や水素発生剤で水素を発生させ臓器保存液に水素ガスを供給する方法は、簡便性に欠ける上、保存液中の水素ガス濃度を1ppm前後まで上げるのに24~48時間を要するため、緊急性が要求される移植医療の臨床現場には不向きだった。

研究グループは、臓器保存液の容器内に高濃度の水素ガスを、瞬時に圧入する新しい機器を開発。この機器は小型の組み立て式であり、携帯に適している。水素充填デバイスを組み立て始めてから水素含有臓器保存液が完成するまでにかかる時間は4、5分。常圧下、4度保存での保存液内の水素ガス濃度の減少は極めてゆるやかで、水素ガス充填後4時間までは1ppm以上の高濃度の水素濃度を確保できることを確認した。加えて、水素含有臓器保存液の有効性を、血流を止めたまま状態で時間が経ったドナーからのブタ腎移植モデル(患者年齢を考慮し、高齢のミニブタを使用)で検証した。血流を止めたままの状態で30分間が経過した腎臓を、ドナー腎として摘出し、左右の腎臓に分けて、一方は水素含有臓器保存液、もう一方は水素非含有臓器保存液を用いて、1mの自然点滴落下で5分間臓器内にたまった血液を洗い流した。水素非含有臓器保存液と比較して、水素含有臓器保存液の方が、自然落下によるドナー腎臓の洗い流し速度が速く、組織解析からも、尿細管周囲等の毛細血管系の拡張と微小血栓の洗い流し効果に優れていることが確認された。

さらに、移植後短期的観察(術後6日目まで)において、水素非含有保存液に浸して保存された腎臓を移植した場合は、保存時間が1時間であっても、移植した腎臓が機能しないプライマリーノンファンクション状態となり、尿の排泄は認められなかったが、水素含有臓器保存液で浸漬保存された腎臓を移植した場合は、保存時間を4時間まで延長しても尿排泄が観察された。

免疫抑制剤投与下における長期移植腎機能も検証する予定

この手法は、心停止したドナーから摘出したマージナル臓器を移植可能な臓器へ蘇生させる新たな技術として有効であり、臨床の現場で爆発の危険性もなく、安全に、かつ簡便に使用可能であることが示された。

今回の研究では、術後急性期に焦点を当てて検証したが、今後は、免疫抑制剤投与下における長期移植腎機能に関しても検証することで、マージナル臓器の移植成功率を高めていくことが期待される。

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