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進行型MSの病原性リンパ球生成にプロラクチンが重要と判明-NCNP

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2019年10月03日 PM12:45

脳の炎症を慢性化させる「」の生成機序は?

(NCNP)は10月1日、多発性硬化症の動物モデルを用いて、脳の慢性炎症において乳汁分泌刺激ホルモンであるプロラクチンが重要な役割を果たすことを明らかにしたと発表した。この研究は、同センター神経研究所免疫研究部の山村隆部長、大木伸司室長、張晨阳研究員らの研究チームによるもの。研究成果は、米国科学アカデミー紀要「Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America」オンライン版に掲載された。


画像はリリースより

多発性硬化症(multiple sclerosis:MS)や、アルツハイマー病などの、運動機能や認知機能が損なわれる脳・脊髄の病気では、慢性的な炎症が神経細胞にダメージを与えて病気の進行に関与することが認知されるようになってきた。一方で、脳内で起こる慢性炎症の仕組みは十分に理解されているとは言えず、治療薬の開発も思うように進んでいない。研究チームは実験的自己免疫性脳脊髄炎(Experimental autoimmune encephalomyelitis:EAE)を用いて、脳内の炎症が慢性化して治りにくくなる機序について研究を進めてきていた。EAEを発症したマウスでは、脳や脊髄に炎症が起こり四肢の動きが悪くなる。EAE発症の早期ではTh17細胞というリンパ球が脳の炎症を誘導するが、その時期が終わると、「エオメス陽性ヘルパーT細胞」というリンパ球が神経細胞にダメージを与えて脳の炎症を慢性化させる。この細胞は、MSにおいても病態の慢性化に関わることがわかっているが、それがどのような機序で生成するのか未解明だった。そこで研究チームは、新しい治療法の開発につながる可能性がある、この機序の解明に挑戦した。

プロラクチン分泌抑制剤による脳内慢性炎症に対する抑制効果

研究チームはまず、EAEのさまざまな時期(発症早期、中期、後期)にマウスの脳から免疫細胞を分離し、その性質を解明する研究を行った。EAEを発症すると多くのリンパ球・免疫細胞が脳内に侵入するが、それらのなかで抗原提示機能を持っているB細胞や樹状細胞は、乳汁分泌刺激ホルモンであるプロラクチンを大量に産生するように変化することがわかった。さらにB細胞や樹状細胞は、脳内に侵入したT細胞をエオメス陽性ヘルパーT細胞に変化させることや、その際にプロラクチンの作用が必須であることが確認されたという。また、プロラクチンの分泌を抑制する薬剤は脳内におけるエオメス陽性ヘルパーT細胞の生成を抑制して、EAEの慢性化を抑制することが証明された。

プロラクチンは脳下垂体で産生される乳汁分泌刺激ホルモンとして知られているが、炎症や免疫疾患における役割については、これまで極めて限られた情報しかなかった。今回の研究で、脳に侵入した抗原提示細胞(B細胞や樹状細胞)がプロラクチンを産生するという予想外の発見から発展し、プロラクチンがEAEにおける脳内慢性炎症に関与することが明らかになった。プロラクチンはこれまで免疫・炎症疾患の領域で研究されたことは少なく、今後さらに研究が発展するものと期待が寄せられる。

また、今回の研究ではプロラクチン分泌抑制剤による脳内慢性炎症の抑制効果も示されたが、そのなかには現在、臨床で他疾患の治療薬として承認されている薬剤もあるという。研究チームは、「二次進行型MSやアルツハイマー病など、現在良い治療法のない中枢神経系の難治性疾患に対する薬効も期待され、近い将来、本格的な臨床研究や臨床試験を実施する必要があると考えている」と、述べている。

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