蛍光などを用い体外から観察、生きたままで動物評価が可能に
広島大学は9月30日、腎臓病の初期の病変を体外から観察する遺伝子改変マウスの作製に成功したと発表した。この研究は、同大大学院統合生命科学研究科の矢中規之准教授らが、重井医学研究所、オランダのラドバウド大学と共同で行ったもの。研究成果は、英国科学誌「Scientific Reports」にオンライン掲載されている。
画像はリリースより
腎臓病が悪化した後の人工透析患者数は30万人に達し、重大な社会問題だ。腎臓病は初期に自覚症状がないまま進行する危険な病気であることから、発症の予防や軽減を実現する食品機能性などが強く求められている。一方、食品機能に関する動物評価では、実験動物数や実施内容において動物愛護の面から社会問題となっている。近年、生体内の微弱発光や蛍光を体外から高感度に分析するイメージング機器が開発され、非侵襲性(動物が生きた状態)の評価手法が広く利用されるようになっている。
糖転移ヘスペリジンの摂取は動物実験において腎炎の発症を抑制
研究グループは、アデニンを含む食餌により誘発される腎炎発症時に、腎臓で発現が上昇 する遺伝子「Serum amyloid A3(Saa3)」に注目。Saa3遺伝子のスイッチオン・オフを利用した「腎炎を体外から検知するマウス」を着想し、ホタルの化学発光を担うルシフェラーゼ遺伝子を、Saa3遺伝子のスイッチ部分(プロモーター領域)の染色体上に組み込んだトランスジェニックマウスを作製した。このマウスにアデニン食を与え始めて1週間後に、イメージング機器で腎臓特異的な発光を撮影した。結果、腎炎発症の極めて初期(腎炎のマーカーである血液中のクレアチニンや尿素窒素が上昇する前の状態)で化学発光が体外から観察された。そこで、食品素材による予防効果を探したところ、機能性食品素材として期待されている「糖転移ヘスペリジン」の摂取により化学発光が抑制された。事実、血液中のクレアチニンや尿素窒素のその後の上昇も抑制され、腎炎が予防できたことが示されたという。
今回の研究結果は、腎炎の発症予防や軽減を指向した新しい機能性食品素材の探索に利用される。また、多様な炎症性疾患が社会問題となっている現代において、他の炎症性疾患(大腸炎や皮膚炎など)においても特徴的な評価系としても利用されると考えられるという。「食品での予防効果を短期間で評価し、また同じマウスを用いて継時的に機能性を解析することが可能となる。非侵襲性、かつ早期に判断できる動物評価モデルは、使用実験動物数の削減や痛みの軽減で、動物に優しい研究につながるなど、動物愛護問題に対する今後の一つの解決策を提示する」と、研究グループは述べている。
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