抗菌薬・抗生物質、および薬剤耐性について、688名を対象に調査
国立国際医療研究センター病院AMR臨床リファレンスセンターは9月26日、全国の10代~60歳以上の男女688名を対象とした「抗菌薬意識調査レポート2019」の結果を発表した。
画像はリリースより
感染症治療に必要な抗菌薬・抗生物質が効かない薬剤耐性(AMR)の問題が世界中で深刻化している。日本でも2016年に「薬剤耐性(AMR)アクションプラン」が発表され、薬剤耐性についての取り組みが始まっている。薬剤耐性の問題は抗菌薬・抗生物質の不適切な使用が一因とされている。今回の調査は、抗菌薬・抗生物質、および薬剤耐性とは何かについて、現在一般の人がどのように認識しているのかを把握し、問題点と今後の取り組みの方向性を提示することを目的としている。
抗菌薬に対する正しい知識を持つ人少なく、働き方改革も浸透していない現状が浮き彫りに
調査の結果、一般国民の抗菌薬・抗生物質に関する知識は不十分であると判明。「抗菌薬・抗生物質がウイルスをやっつけるというのは間違い」という正しい知識を持つ人は23.1%のみであった。また、「抗菌薬・抗生物質はかぜに効果があるは間違い」という正しい知識を持つ人も35.1%に留まっていた。国内で抗菌薬・抗生物質に関する正しい知識を持つ人の割合は、同様の調査が行われているEU諸国と比較しても、かなり低いことが明らかとなった。
また、風邪で受診したときに患者が希望する薬として症状を抑える薬剤が並ぶ中、上位に抗菌薬・抗生物質が入っていた。つまり、抗菌薬・抗生物質が症状を抑える薬だと誤解されている可能性がある。一方、風邪で受診した際に医師から処方される薬としても抗菌薬・抗生物質が上位に入っており、しばしばみられる不適切な抗菌薬・抗生物質の処方が誤解を強めている可能性も考えられるという。
さらに、「かぜをひいても仕事や学校を休まない人」は約63%で、そのうち「休みたいが休めない」人が全体の約4割を占めており、働き方改革や健康教育がまだ十分浸透していないことがうかがわれた。また、「薬剤耐性」「薬剤耐性菌」という言葉を聞いたことがある人は全体の約半分であったが、聞いたことがあっても薬剤耐性を「人の体質が変化して抗菌薬・抗生物質が効かなくなる」ことだと誤解している人が約4割を占めたという。
その他、「処方された抗菌薬・抗生物質はすべて飲み切る必要がある」に対して「あてはまる」と正しく回答した人は63.4%、「抗菌薬・抗生物質を飲むと下痢などの副作用がしばしば起きる」に対して「あてはまる」と正しく回答した人は54.1%などの結果が公表された。
一般国民を対象とした抗菌薬・抗生物質や薬剤耐性に関する知識の普及啓発活動が重要
今回の調査結果により、日本人の抗菌薬・抗生物質や薬剤耐性への知識が不十分であること、また、風邪の症状があっても「学校や職場を休めない」など、感染予防に関する意識や健康教育が、社会に十分浸透していないという現状が明らかになった。
研究グループは、「今回の調査を通じ、一般国民の間で抗菌薬・抗生物質に関する正しい知識は十分とは言えず、誤解も多いことが示唆された。抗菌薬・抗生物質や薬剤耐性に関する知識の、一般国民を対象とした普及啓発活動を今後も継続し、すべての人が健康な生活を送れるよう、薬剤耐性の問題に取り組んでいく必要がある」と、述べている。