肺の「滞在型メモリーCD8T細胞」とその蓄積部位に着目
近畿大学は9月26日、インフルエンザウイルス感染防御を担う「滞在型メモリーCD8T細胞」が、肺気道上皮において持続的に供給されていることを発見し、その仕組みを解明したと発表した。この研究は、同大学医学部免疫学教室の高村史記講師らの研究グループが、同大学薬学部、同大学アンチエイジングセンター、大阪大学、東京理科大学、理化学研究所、大阪大谷大学、米国のエモリー大学、カリフォルニア大学、ペンシルベニア大学と共同で行ったもの。研究成果は、「Journal of Experimental Medicine」に掲載されている。
画像はリリースより
現在のインフルエンザワクチンは、変異しやすいウイルス表面タンパク質を標的とするため、特定の型のウイルスにしか効果を示さない。また、ウイルス侵入門戸である呼吸器粘膜における免疫応答誘導効果が期待できないため、感染そのものを阻止することは不可能だ。一方、インフルエンザウイルス感染防御を担うCD8T細胞は、あらゆるウイルス株に共通するウイルス内部タンパク質を標的として感染細胞を直接破壊する。そのため、その維持機構を解明し、呼吸器粘膜に効果的に誘導・維持することができれば、インフルエンザウイルス感染防御の有効な手段になると考えられる。
メモリーCD8T細胞には「循環型」と「滞在型」があり、滞在型メモリーCD8T細胞はウイルスを排除した後も組織内に長期間滞在し、再感染に対する防御の最前線を担うことが知られている。研究グループは、2016年に発表した先行研究で、肺における滞在型メモリーCD8T細胞の蓄積部位を特定した。
肺実質メモリーCD8T細胞は、特異的受容体を介して肺気道上皮に持続供給
今回研究グループは、肺気道上皮の滞在型メモリーCD8T細胞が、循環型とは完全に独立して長期維持されていることを立証し、さらにその持続的供給機構を解明した。
研究グループは、ウイルスが最初に感染する肺気道上皮細胞間に存在する肺気道メモリーCD8T細胞に関して研究を進め、1)肺気道環境はメモリーCD8T細胞の長期生存に適さないため、継続的に新しい細胞を補わないと防御に有効な細胞数を維持できないこと、2)肺気道にメモリーCD8T細胞を持続供給しているのは循環系ではなく、研究グループが先行研究で示した肺実質内に存在するメモリーCD8T細胞の蓄積部位であること、3)この細胞移行には、肺実質メモリーCD8T細胞に特徴的に発現する受容体が関わっていることを発見したという。
今回の研究によって、肺気道上皮にメモリーCD8T細胞を持続供給する仕組みが解明されたが、既存の全身免疫型ワクチンでは肺気道メモリーCD8T細胞を誘導することが困難であることも示された。「今後さらにその維持機構の詳細を明らかにし、CD8T細胞を感染局所に効果的に誘導・維持することができれば、あらゆるインフルエンザウイルス株に有効な新しいワクチンの開発が可能になる」と、研究グループは述べている。
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