ヒトiPS細胞から多臓器を一括創生するための基盤技術の確立を目指す
東京医科歯科大学は9月26日、ヒトiPS細胞から肝臓・胆管・膵臓を連続的に発生させることに成功したと発表した。この研究は、同大統合研究機構先端医歯工学創成研究部門創生医学コンソーシアムの武部貴則教授らと、シンシナティ小児病院との共同研究によるもの。研究成果は、国際科学誌「Nature」オンライン版に掲載された。
画像はリリースより
人間の体は1個の受精卵から発生し、数百~数千種類から成る数十兆の細胞への分化を経て、さまざまな臓器を形成し、個体となる。近年、それらの発生学的プロセスを試験管内で模倣することにより、ヒトiPS細胞などの未熟な幹細胞から特定の臓器を人為的に創出する試みに注目が集まっていた。しかし、特定の臓器のみ(単一臓器)の誘導を試みるという従来のパラダイムでは、隣接した複数臓器間の連結が再現されない。このため、目的の臓器機能が十分に発揮されない、あるいは、持続しないなどの重大な未解決課題が存在していた。例えば、肝臓に隣接する臓器である「胆管」において、狭窄が生じる胆道閉鎖症などの疾病では、徐々に肝臓が傷害され、最終的に肝不全の状態に陥ることが知られている。
研究グループは、失われた機能の完全再生のためには、臓器の設計思想の抜本的な見直し(パラダイムシフト)が必要と考えた。つまり、周辺臓器との連続性を取り入れた複雑な多臓器創生技術の開発が急務と考えられた。今回の研究では、胎内で臓器間の連結が作り上げられるダイナミズムに着目し、それらを試験管内で人工的に再現することにより、ヒトiPS細胞から多臓器を一括創生するための基盤技術の確立を目指した。
多臓器一括創生が可能となれば、再生医療の実現に貢献
肝・胆・膵領域を構成する多臓器は、受精後8週前後に形成される前腸と中腸と呼ばれる前駆組織の境界領域(バウンダリ)より発生することが知られている。そこで、今回の研究では、発生初期段階で生じる前腸・中腸およびその周辺細胞の細胞間相互作用に着目し、それらの再現を試みた。まず、ヒトiPS細胞から前腸および、中腸組織を別々に誘導。それらを連結させ、バウンダリを作成したところ、肝臓・胆管・膵臓の前駆細胞が、その境界領域より自発的に誘導されることを見出した。
今回の研究では、従来の単一の臓器再生という考えから脱却し、周辺組織との連関をふまえた多臓器一括創生(システム再生)へと開発目標を大きく転換させることで、肝・胆・膵組織を一括創生するための基盤技術の開発に成功した。ヒトでは今まで解析することが困難だった、胎内で生じる複雑なヒト臓器形成を解析するための有効なツールとして、ヒト生物学研究の発展につながる成果と言える。
さらに、臓器間の連結が機能の発現に必須となる、さまざまな臓器への水平展開(例えば、腎系統(血管-腎臓-尿管・膀胱)や肺系統(気管-肺胞-毛細血管)、中枢神経系統(脳-脊髄-末梢神経・組織)など)が期待される。研究グループは、「将来的に、このような「多臓器(系統)創生」という革新概念に基づく、移植手法を確立することができれば、臓器移植を待つ多くの患者救済につながる画期的な再生医療の実現に貢献するものと考えられる」と、述べている。
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・東京医科歯科大学 プレスリリース