運動が臓器・組織において炎症・老化を抑制する効果
東京都健康長寿医療センターは9月27日、運動が身体の炎症・老化を抑制する分子メカニズムを明らかにしたと発表した。同研究は、同センターと国立障害者リハビリテーションセンター研究所運動機能系障害研究部分子病態研究室、シンガポール国立大学などとの共同研究グループによるもの。研究成果は「Science Advances」に掲載された。
画像はリリースより
とくに高齢者で見られる骨粗しょう症は、大腿骨頚部骨折など生命維持に影響を与える可能性があるケガの原因となり、また、認知機能障害などさまざまな身体機能低下につながる。先行研究において、運動が骨粗鬆症の予防・治療に重要なことはわかっていたが、運動が骨の健康を維持する仕組みは明らかになっていなかった。
また、運動は身体のほとんどの臓器・組織において炎症・老化を抑制する効果があることはわかっていたが、その仕組みについては明らかになっていなかった。
Casが骨細胞核内に分布、NF-κB活性低下で骨破壊プロセスを抑制
研究グループは、普通に運動をしているマウスにおいて、力を感知するタンパク質Casが骨細胞の核内に分布し、細胞・組織の炎症・老化に関与するタンパク質NF-κBの活性が低下することで、骨破壊へのプロセスが抑制されていることを発見した。マウスの片方の後ろ足の運動性を低下させ、マウスが歩く、走るなどした時に骨に加わる衝撃を弱めたところ、骨細胞でCasが核外に分布し、NF-κBの活性を低下させることができず、骨破壊へのプロセスが活性化され、骨量が減少することがわかった。また、骨細胞でCasが欠損する遺伝子改変マウスでは、普通に運動している状態でも、骨に衝撃が加わらない状態と同様に骨量が減少していたという。
骨に衝撃を与えた時に起きる骨内の組織液(間質液)の流動で骨細胞に加わる力学的刺激を培養骨細胞に加えたところ、Casが核内に分布しNF-κB活性を低下させ、破骨細胞分化へのプロセスを抑制していた。この培養骨細胞への10分間の力学的刺激の効果は、その後24時間以上持続したという。
今回、研究グループは骨への衝撃の効果を検証したが、骨以外の組織においても「間質液流動→細胞に力学的刺激→Casが核内に分布→NF-κBの活性抑制」という分子の仕組みが、運動の炎症抑制・抗老化効果に関与していることが考えられるという。今回の研究は、間質液の動きを促進することが健康維持法としての運動の本質であり、障害などで運動できない人にも適用可能な擬似運動治療法の開発につながる可能性を見出せた、と研究グループは述べている。
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・東京都健康長寿医療センター プレスリリース