子宮体がんにおけるがん幹細胞を標的とした治療の開発へ
新潟大学は9月27日、子宮体がん幹細胞の培養に成功し、アルデヒド脱水素酵素の阻害剤および糖取り込み阻害剤が、抗がん剤パクリタキセルと協調して、子宮体がんの増殖を抑制することを明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院医歯学総合研究科産科婦人科学分野の榎本隆之教授、石黒竜也助教らの研究グループが、同循環器内科学分野南野徹教授、国立がん研究センター研究所の岡本康司分野長らと共同で行ったもの。研究結果は「Stem Cell Reports」に掲載されている。
子宮体がんは早期であれば再発率が低く予後は良好だが、遠隔転移を認める例や高悪性度の場合には未だに予後不良な疾患である。また、現在使用されている治療薬が少ないため、治療に難渋する例も多く、新たな治療薬の開発が望まれている。近年、がんの増殖や転移、治療抵抗性に関わる「がん幹細胞」の研究が進み、「がん幹細胞」を標的とした治療戦略の開発が期待されている。がん幹細胞の研究において、臨床患者の腫瘍からがん幹細胞を培養することは大変有用である。しかし、子宮体がんの腫瘍を用いたがん幹細胞の安定的な培養法はこれまで十分に報告されていなかった。
保険収載済みのジスルフィラムが治療薬となる可能性
画像はリリースより
今回の研究ではまず、予後不良な高悪性度の子宮体がん患者から提供されたがん組織を用いて、がん幹細胞の安定的な培養に成功。同細胞を免疫不全マウスへ移植し、患者腫瘍と同様の腫瘍を形成することを確認した。
また、子宮体がん幹細胞を特定するマーカーとして、他のがん腫でも報告のある「アルデヒド脱水素酵素(ALDH)の活性」が有効である可能性を見出した。アルコール依存症の治療薬として使用されている「ジスルフィラム」などを用い、アルデヒド脱水素酵素の活性を抑制することで、子宮体がんの増殖が抑制されることがわかった。
さらに、アルデヒド脱水素酵素が高活性の子宮体がん幹細胞において、細胞内のエネルギー代謝に関わる「解糖系」が亢進していることを発見。特に糖(グルコース)の取り込みが重要であり、糖の取り込みに関わる糖輸送体GLUT1の働きを抑えることで、子宮体がんの増殖が抑制されることを見出した。加えて、アルデヒド脱水素酵素が高活性のがん幹細胞は、現在子宮体がん治療に使用されている抗がん剤「パクリタキセル」に反応しにくいことも判明。パクリタキセルにアルデヒド脱水素酵素活性の阻害剤または糖輸送体の阻害剤を併用することで、協調的に子宮体がんの増殖を抑制できることを明らかにした。
これらの研究結果により、アルデヒド脱水素酵素阻害剤または糖取り込み阻害剤が子宮体がんの新たな治療薬として臨床応用される可能性がある。「アルデヒド脱水素酵素阻害薬のジスルフィラムは抗酒薬として国内で既に保険収載されており、今後の子宮体がん治療への使用が期待される」と、研究グループは述べている。
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・新潟大学 研究成果