腎臓の炎症および線維化を防ぐMA-35、大腸では?
東北大学は9月25日、炎症性大腸がんの発生を抑える新規のメカニズムを解明、2017年に研究グループらが開発した新規薬剤Mitochonic acid 35(MA-35)が、炎症性大腸がんマウスにおいて大腸がんの発生を抑えることを明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科および大学院医工学研究科病態液性制御学分野の阿部高明教授、同大学院消化器外科学分野の大沼忍講師、海野倫明教授らの研究グループによるもの。研究成果は「Scientific Reports」に掲載されている。
画像はリリースより
大腸がんは日本国内において主な死亡原因のひとつであり、2017年の統計において死亡原因の第2位となっている。大腸がんの発生は食生活などの生活習慣と関わりがあるとされているが、その他に、炎症性腸疾患などの大腸の慢性的な炎症も大腸がんを誘発すると考えられている。炎症性腸疾患では、慢性炎症の結果生じる腸組織の線維化も発がんの誘発に関わっているとされているが、有効な治療法がないのが現状。
これまで、研究グループは腎臓病患者の血液中の成分を解析し、腸内細菌由来の代謝物でさまざまな生理活性作用を持つ化学物質(インドール化合物)を発見した。岡山理科大学の林謙一郎教授らのグループとの共同研究において発見したインドール化合物の類似化合物を探索した結果、新規薬剤MA-35が腎臓の炎症および線維化を防ぐことを、2017年に報告している。今回の研究では、薬剤投与によって作成した炎症性大腸がんマウスを用いて、薬剤MA-35が腫瘍の形成を抑えるのか、また、組織の線維化を防ぐ作用を示すかについて調べた。
TNF-αシグナルとTGF-β1シグナルの両方を阻害
炎症性大腸がんマウスに薬剤MA-35を70日間経口投与したところ、下痢や下血などの炎症症状や血液検査で判断した貧血症状が改善し、生存率も改善した。炎症性大腸がんマウスでは、腫瘍が形成されたために腸管の長さが短くなってしまうが、MA-35を投与すると腸管長の短縮が抑制され、大腸がんの発生も減少した。また、腸管粘膜の炎症や線維化も抑えられていた。大腸組織における遺伝子発現を解析した結果、MA-35を投与した炎症性大腸がんマウスにおいて、炎症と線維化に関連する遺伝子の量が、がんになる前の病巣(異形成部)において低下していた。さらに、ヒト大腸がんの培養細胞を用いて、炎症に関与する細胞内情報伝達経路(TNF-αシグナル伝達経路)と線維化に関与する細胞内情報伝達経路(TGF-β1シグナル伝達経路)を解析したところ、MA-35はどちらの経路も途中段階で阻害することで、結果として大腸の炎症および線維化を抑えていることが明らかとなった。
今回の研究結果により、MA-35は、炎症性大腸がんマウスにおいて、炎症から異形成、大腸がんへと病巣が進行する過程で、TNF-αシグナル伝達機構とTGF-β1シグナル機構の両方を阻害することで、大腸粘膜の炎症・繊維化を抑え、腸炎関連大腸がんの発生を抑えていることが明らかとなった。MA-35はすでに国内外の特許申請を完了している日本発の化合物。「MA-35はこれまで有効な治療薬の無かった炎症性腸疾患に対する新規治療薬になりうる」と、研究グループは述べている。
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