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高齢者肝切除後に自立生活が困難になるリスク評価を確立-大阪市大

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2019年09月20日 AM11:45

手術後の自立生活に影響を及ぼす「」「76歳以上」「」の3因子

大阪市立大学は9月18日、自立生活をしている高齢者において、肝切除手術後の自立生活に影響を及ぼす因子が、「フレイル」「76歳以上」「開腹手術」の3つであると特定し、これらが2つ以上該当する場合、肝切除手術後にそのリスクがより高まることを証明する研究結果を発表した。この研究は、同大大学院医学研究科肝胆膵外科学の田中肖吾講師、新川寛二病院講師、久保正二病院教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Annals of Surgery」にオンライン掲載された。


画像はリリースより

手術手技や周術期管理の向上により、肝切除手術後の合併症や在院死の頻度が大きく減少した一方で、高齢患者の中には、術前は自立生活を送っていたにも関わらず、療養目的の転院や退院したものの、術後に身体能力の低下により介護が必要になることが問題となっていた。しかし、肝切除手術後に自立生活が困難になることを術前に評価できる指標はこれまでになかった。研究グループは、その指標としてフレイルに着目した。

フレイルとは、ストレスや侵襲が加わることにより介護が必要となる前段階。研究グループは先行研究で、厚生労働省の基本チェックリストによりフレイルと判定された高齢患者は、フレイルではない高齢患者に比べ、呼吸器・循環器系合併症や、せん妄などの合併症が多いのみならず、療養目的の転院や、退院後介護申請を行った頻度が高いことを証明していた。今回はこれを踏まえ、さらに症例の蓄積を行い、フレイルを含めた肝切除手術後の非自立生活に対する術前リスク評価を作成した。

危険因子の該当個数で、非自立の頻度が変化

研究グループは、2016年5月~2018年5月の期間、肝切除手術予定の自立生活を送っている65歳以上の高齢者347例に対し、手術前1週間以内に基本チェックリストによるフレイル判定を行った(前向き多施設共同研究)。非自立は、「療養目的転院」、「退院後介護申請」、「退院後30日以内に身体機能低下での再入院」および「術後90日以内のがん死を除く死亡」と定義。研究コホートで非自立に対するリスク評価を行い、その妥当性を検証コホートで確認した。

その結果、研究コホート32例(13.8%)および検証コホート16例(13.9%)が、非自立と判定された。研究コホートでの単変量および多変量解析の結果、「フレイル」「年齢(76歳以上)」および「開腹手術」が肝切除手術後の非自立生活に対する独立危険因子と同定された。この3つの因子の該当個数での非自立の頻度は、該当なし3.0%、1項目該当8.1%、2項目該当25.5%、3項目全て該当56.3%だった。これを検証コホートで検証した結果、非自立の頻度は、該当なし0%、1項目該当12.5%、2項目該当25.0%、3項目全て該当50.0%だった。

さらに、この3項目の該当個数でのリスク評価の予測能を調べるために、受信者動作特性曲線下面積(ROC-AUC)を測定したところ、研究コホート0.777および検証コホート0.783という高い予測能だった。

術前から栄養療法・運動療法を導入することで、術後の非自立のリスクが軽減する可能性

今回の研究成果より、今後、高齢患者に肝切除手術を予定する際に「フレイル」「年齢(76歳以上)」および「開腹手術」のうち2項目以上が該当する場合、高い頻度で術後に非自立に陥る可能性があることを、術前に患者およびその家族に説明し理解してもらうことで、退院後の生活に対する準備ができると考えられる。

研究グループは、「フレイルを有する高齢患者に、術前より栄養療法・運動療法などを導入することで、術後の非自立のリスクを軽減させる可能性が期待される。また、手術手技の向上により、これまでは開腹手術で行っていた手術を腹腔鏡手術でできるようになれば、その低侵襲性により、術後の非自立のリスクを軽減させる可能性も期待される」と、述べている。

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