緊張を乗り越える脳の仕組みを行動実験とfMRIを用いて検証
高知工科大学は9月18日、行動実験とfMRI(磁気共鳴機能画像法)を組み合わせて、人間が緊張感やプレッシャーを抑制的にコントロールし、課題の成績を向上させる脳内メカニズムを解明したと発表した。この研究は、同大総合研究所脳コミュニケーション研究センターの渡邊言也助教らの研究グループが高知工科大学、米国ラトガース大学、名古屋大学、情報通信研究機構と共同で実施したもの。研究成果は、国際科学誌「NeuroImage」にて掲載予定。
画像はリリースより
ヒトは結果を意識すると、行動が始まる前から緊張感やプレッシャーを感じてしまい、心拍が上昇する、呼吸が荒くなるなどの反応が現れ、思うように行動できないということがある。反対に、心を落ち着けることで、結果的に良い行動ができる場合もある。ヒトは興奮したり緊張したりしてしまうとなぜパフォーマンスが低下してしまうのか、ヒトの脳はどのように緊張をコントロールしてプレッシャーを乗り越えているかについては、脳のメカニズムの観点からは説明できていなかった。そこで、研究グループは緊張を乗り越える脳の仕組みについて、行動実験とfMRIを用いて検証した。
腹内側前頭前野が感情の中枢である扁桃体を抑制的にコントロール
同研究では、実験参加者22名にストップウォッチを使った課題に取り組んでもらった。参加者には、スタートの合図から5秒ちょうどでストップボタンを押すことが要求され、頭の中で時間を数えながら5秒に近いタイミングでストップボタンを押す。5秒に限りなく近い時間(例:4.900秒~5.100秒)の間でボタンを押すことができれば成功とした。練習の翌日、参加者はMRIの中で本番課題に80回取り組んだ。本番では参加者に、「用意」のタイミングで試行ごとに50セント~40ドルの賞金額(およそ日本円で54円から4,400円)が提示され、成功したらその賞金がもらえることを説明。これによって、参加者の試行ごとの緊張感を操作した。参加者の生理的覚醒レベルは目の瞳孔のサイズを計測。過去の研究より、動物の瞳孔は興奮しているときほど散大することが明らかになっている。この指標を用いて、参加者に賞金額が提示されてからストップウォッチ課題を遂行する寸前の5.5秒間の覚醒レベルと脳活動を解析した。
解析の結果、失敗する試行では、瞳孔が賞金額の大きさに影響されて大きくなったり、小さくなったりした。一方で、成功する試行では、その傾向は少なく、瞳孔は賞金額に影響されにくいということがわかった。また、脳活動では、人間が興奮や緊張を乗り越え、課題パフォーマンスを向上させるために、腹内側前頭前野が感情の中枢である扁桃体を抑制的にコントロールしていることを発見。腹内側前頭前野から扁桃体への情報伝達がより強い人のほうが、ストップウォッチ課題の平均成績が良いことが明らかになったという。
「この結果は今後、消防士や救急救命士、アスリートや演奏家といった強いストレスやプレッシャー状態に晒されることの多い職業の人が、それぞれの現場で自身の持つパフォーマンスを最大限に発揮できるようになるためのトレーニング方法の開発などに応用することができる」と、研究グループは述べている。
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・高知工科大学 プレスリリース