「網様体」に着目し、リハビリに伴う神経核の役割を研究
名古屋市立大学は9月13日、脳出血後の集中リハビリテーションによる神経回路(運動野-赤核路)の変化と運動機能の回復との間に因果関係があることを初めて明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科の飛田秀樹教授および石田章真講師と、京都大学医学研究科および自然科学研究機構生理学研究所との共同研究によるもの。研究成果は、国際科学誌「Journal of Neuroscience」に掲載された。
画像はリリースより
脳出血により運動野と脊髄を結ぶ皮質脊髄路が損傷を受けると、運動まひが生じる。研究チームはこれまでに、集中的なリハビリを行うことで、大脳皮質と脊髄を結ぶ脳幹部に存在する「赤核」を介する神経回路が増強され、損傷された運動機能の回復に関わることを示してきた。しかし、脳内に運動に関わる神経回路はいくつもあり、それぞれがどのように影響し合うかは不明だった。研究チームは、赤核と同じく脳幹に存在する神経核「網様体」に着目し、リハビリに伴う両神経核の役割の変化を調べた。
「運動野―網様体間」の神経線維の増加が回復と関連
研究グループは、運動野と脊髄を結ぶ神経回路の一部である内包に脳出血を生じさせ、前肢にまひをきたしたラットに1週間集中的なリハビリテーションを実施した。大脳皮質の「運動野」と「赤核」とを結ぶ神経線維が増加していた一方で、「運動野」から「網様体」へ伸びる神経線維は変化が起こっていなかったことが観察された。
また、脳出血と同じ側の運動野・前肢領域と赤核との間の神経回路を選択的に遮断するため、脳出血前に、順行性ウイルスベクター(AAV-DJ-CMV-rtTAV16)を運動野に、逆行性ウイルスベクター(FuG-E-TRE-EGFP-eTeNT)を赤核に注入しておき、この状態でドキシサイクリン(DOX)を投与。ウイルスベクターに二重感染した神経細胞には、ドキシサイクリンに反応して破傷風毒素が産生されるように遺伝子が導入されているため、二重感染が起きた運動野―赤核路の細胞のみに破傷風毒素が発現し、シナプス伝達が阻害される。この場合の、運動野から投射される神経線維の分布を調べた結果、無処置群と比べて、リハビリ群の赤核における神経線維の増加がみられなくなり、代わりに時間経過とともに網様体への神経線維の増加が確認された。
さらに、運動野―赤核路に加えて運動野―網様体路の機能も選択的に遮断するため、運動野に2種類の順行性ウイルスベクター(AAV-DJ-CMV-rtTAV16、AAV-DJEF1α-DIO-hM4D(Gi)-mCherry)、赤核と網様体に逆行性ウイルスベクター(FuG-ETRE-EGFP-eTeNT、FuG-E-MSCV-Cre)をそれぞれ注入。この状態でDOXを投与することで運動野―赤核路を、クロザピン-N-オキサイド (CNO) を投与して運動野―網様体路の機能を抑制したところ、リハビリによって回復した前肢の運動機能が再び悪化した。これにより、運動野―網様体間の神経回路の機能を抑制すると、リハビリによって回復した運動機能が再び悪化し、この回路が機能回復と因果関係を持つようになったことが実証された。
今回の研究結果は、リハビリテーションによる運動機能の直結する神経回路の再編成(運動野―赤核路の強化)は、速やかに他の神経回路の活用(運動野―網様体路の強化)によってカバーされうることを示唆。「この成果は脳の持つ驚くべき柔軟性を示しており、今後はより効率的な脳出血後のリハビリテーション法の開発につながることを期待する」と、研究グループは述べている。
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・名古屋市立大学 プレスリリース