約8万3,000人の母親の産後うつと対児愛着との関連を調査
富山大学は9月11日、約8万3,000人の母親の産後うつと子どもへの愛着指標の関連を調べた結果、産後うつが出産1年後の対児愛着の状況を予測することを「子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)」から明らかにしたと発表した。この研究は、同大エコチル調査ユニットセンターの笠松春花研究支援員らのグループによるもの。研究成果は「Psychological Medicine」に掲載されている。
画像はリリースより
「対児愛着(ボンディング)」は母親から子どもに向けられる情緒的な関心や愛情のことで、 母親が子どもの世話をしたり、守ったりする動機づけにもなるもの。一方で、自分の子どもに対して愛情がわかず、世話をし、守りたいという感情が弱く、イライラしたり敵意を感じたり攻撃したくなるような「ボンディング障害」の症状に苦しむ人もいる。「ボンディング障害」は虐待を含むマルトリートメント(不適切な養育)につながる危険性も示唆されており、子どもの成長や発達に悪影響を与える場合もある。研究グループは以前に、産後1か月時点の産後うつとボンディングの程度を評価し、産後うつに関連してボンディングが悪くなることを明らかにしている。
「快感消失」と「愛情の欠如」、「不安」と「怒りと拒絶」に強い関連
以前の研究を踏まえ今回はまず、エコチル調査に参加している母親約8万3,000人の産後1か月および6か月の産後うつを調べ、調べた時点から時間経過した産後1年時点のボンディングの程度を評価し、両者の関連をより詳細に調べた。
産後うつは、「エジンバラ産後うつ病質問票」を用いて評価。産後のうつ症状を簡便にスクリーニングするため開発された10の質問に対して、0・1・2・3 点の4件法で回答、得点で評価する形式。この質問票からは、不安、快感消失、抑うつといった気持ちの傾向を読み取れることがこれまでに示されている。ボンディングは「赤ちゃんへの気持ち質問票」を用いて評価。質問票は、「赤ちゃんの世話を楽しみながらしている」「こんな子でなかったらなあと思う」といった、赤ちゃんへの肯定的・否定的な気持ちを尋ねる10の質問で構成され、産後うつの質問票同様に回答してもらい、評価した。今回は、ボンディングに関連していると考えられる他の要因(出産経験や過去の病歴など)による影響を除外。ボンディングの質問票からは、愛情の欠如、怒りと拒絶、という2つの気持ちの傾向を読み取れるとされている。
結果、産後1か月および産後6か月の産後うつは、いずれも産後1年のボンディングが悪い状態と関連を示した。また、産後1か月と6か月で、産後1年のボンディングとの関連の強さに統計的に意味のある違いはなかった。これらの因子について、どれとどれが関連を示すか検討を行ったところ、すべての因子同士が統計的に意味のある関連を示した。なかでも、「快感消失」と「愛情の欠如」、「不安」と「怒りと拒絶」が他の因子の組み合わせよりも強い関連があることがわかったという。
今回の研究より、産後うつに対して適切なケアを施すことで、その後のボンディングの改善に結び付けられる可能性が示唆された。産後うつ特有の症状である「不安」 因子が「怒りと拒絶」因子と特に強い関連を示したことから、産後の「不安」のケアによって、子へのネガティブな感情を抱くことを避けられる可能性が高いといえる。「今回の研究は予防に関する実験的な研究ではなく、観察した研究であるため断言することはできないが、今後、産後うつをケアする早期介入プログラムを提供するといった研究を積み重ね、さらに検証していく必要がある」と、研究グループは述べている。
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