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がん細胞の骨転移を可溶型RANKLが誘導することを発見ー東大

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2019年09月12日 PM12:15

血中の膜結合型/可溶型RANKLの機能的な違いを調査

東京大学は9月10日、血中の可溶型RANKLが骨転移の発症リスクを予測できるバイオマーカーとして有用である可能性があると発表した。この研究は、同大学大学院医学系研究科病因・病理学専攻免疫学の浅野達雄特任研究員、岡本一男特任准教授、高柳広教授らによるもの。研究成果は、国際科学誌「Nature Metabolism」 にオンライン版で公開された。


画像はリリースより

骨はがんが転移しやすい部位のひとつで、がんが骨に転移すると予後悪化につながる。近年免疫チェックポイント阻害剤の登場により、がん治療は大きな変革期を迎えようとしているが、がん骨転移の予防法・治療法は確立できていないのが現状だ。特に乳がん、肺がん、、悪性黒色腫で骨転移の頻度は高いことが知られている。

骨は、古い骨が破骨細胞により溶かされ、骨芽細胞によって新しく骨が作られることで新陳代謝され、維持される。破骨細胞分化の必須因子は、サイトカインRANKL(ランクル)であり、現在、RANKLを阻害する抗体製剤デノスマブが、骨折などの骨転移に伴う症状を抑える薬として用いられている。しかし、がん細胞が骨に転移するプロセス自体を阻害できる治療法は存在しない。また、抗RANKL抗体は、転移していない正常な骨の破骨細胞機能も総じて阻害するため、低カルシウム血症等の副作用にも配慮することが必要とされる。一方、RANKLは破骨細胞分化だけでなく、リンパ節や胸腺といった免疫組織の形成にも大事であることが知られている。

RANKLは、膜結合型タンパク質として細胞表面に発現した後、タンパク分解酵素によって細胞外領域が切断されることで、可溶型タンパク質としても産生されることが知られている。膜結合型RANKLと可溶型RANKLはいずれもRANKに結合できるが、破骨細胞分化や免疫組織形成など生体内における多彩な役割に対して、膜結合型と可溶型がどのように使い分けされているのかは不明だった。研究グループは、可溶型RANKLのみを欠損させた遺伝子改変マウス(以下、可溶型RANKL欠損マウス)を作製し、膜結合型RANKLと可溶型RANKLの生体内における役割の違いについて検討する研究を行った。

がんの骨転移を可溶型RANKLが誘導、新たな治療アプローチの開発へ

研究グループはまず、可溶型RANKL欠損マウスにおいて、可溶型RANKLの生体内での役割を調べた。結果、可溶型RANKL欠損マウスでも正常に破骨細胞分化が起こり、野生型マウスと比べて骨量にも差がなく、リンパ節や胸腺といった免疫組織の形成も正常だったことを確認した。このことから、破骨細胞分化や免疫組織形成には膜結合型RANKLが中心に働いており、可溶型RANKLは必要ないことが判明した。

次に、がん骨転移における可溶型RANKLの関与を検討するために、同マウスの悪性黒色腫もしくは乳がん細胞を用いて、がん骨転移モデルを実施。その結果、可溶型RANKLを欠損させたマウスでは、野生型マウスと比べて、有意に骨転移が抑制されていた。一方、骨転移部の破骨細胞の数には差はなかった。したがって、可溶型RANKLは骨転移部においても破骨細胞分化に関与していないことが明らかになった。

さらに、可溶型RANKLが、がん細胞に直接作用して細胞移動を促すか検証するため、RANKを欠損させたがん細胞を使って骨転移モデルを実施したところ、可溶型RANKL欠損マウス、野生型マウス共に骨への転移率が低下、両マウス間では転移率に差がなかったことが確認された。これらの結果は、可溶型RANKLが、破骨細胞に働きかけるのでなく、がん細胞のRANKに作用することで骨転移を誘導することを示している。身体の中で、主要なRANKLの産生臓器は骨であることから、がん細胞は可溶型RANKLの刺激を受けることで、骨へ引き寄せられ、骨転移が誘導されることがわかった。

今回の研究成果より、血中の可溶型RANKLが骨転移の発症リスクを予測できるバイオマーカーとして有用である可能性が示唆されたことになる。また、可溶型RANKLを標的とすることで、従来の抗RANKL抗体療法よりも副作用の少ない骨転移治療の開発につながると期待される。

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