脳内炎症細胞ミクログリアの活性化を抑えるペプチドを探索
神戸大学は9月9日、Leucine-Histidine(LH)ジペプチドがミクログリアの活性化を抑制し、うつ様行動を改善することを発見したと発表した。この研究は、同大大学院医学研究科の古屋敷智之教授、北岡志保講師の研究グループが、キリンホールディングス株式会社の阿野泰久研究員らと共同で行ったもの。研究成果は、学術雑誌「Nutrients」にオンライン掲載されている。
画像はリリースより
精神疾患の患者数は増加が続いており、治療のみならず日常生活を通じた予防にも関心が高まってきている。近年の研究により、うつ病患者の脳内で炎症担当細胞であるミクログリアが活性化していることなど、うつ病と脳内の炎症との関連について多くの報告があがっている。脳内炎症抑制はうつ病予防や改善の可能性が示唆されるものの、日常生活を通じたうつ病予防法の開発は十分に検討がなされていなかった。
これまで研究グループでは、乳由来ペプチドであるβラクトリンの認知機能改善効果を解明するなど、ペプチドの多様な生理機能を検証してきた。そこで、今回の研究でも引き続きペプチドに着目し、ジペプチドライブラリーを用いて、ミクログリアの活性化を抑制する成分の探索を行った。
LHジペプチドは経口投与後に脳へ移行、TNF-αおよびIL-1βを抑制
336種のジペプチドを評価した結果、ミクログリアの活性化を強く抑制するペプチドとしてLHジペプチドを発見。LHジペプチドは、リポポリサッカライド(LPS)処理により炎症を惹起させたミクログリアのIL-1α、IL-1β、MCP-1、MIP-1α、TNF-α等の炎症性サイトカインの産生を抑制した。また、放射性同位体を標識したLHジペプチドを用いた試験で、LHジペプチドは経口投与後、脳へ移行することを確認。また、脳室内にLPSを処置した脳内炎症モデルを用いて、経口投与したLHジペプチドが前頭皮質および海馬におけるTNF-αおよびIL-1βの上昇を抑制すること、LPSにより惹起されるうつ様行動を抑制することを確認した。
さらに、研究グループは、うつ病動物モデルとして、反復社会挫折ストレスをかけたモデルマウスを用いた実験を行い、LHジペプチドを経口投与すると、反復ストレスにより生じるうつ様行動や不安様行動を抑制することを確認した。以上の結果から、LHジペプチドはミクログリアの活性化を抑制し、脳内炎症を抑制することでうつ様行動を改善することが示唆された。
LHジペプチドは納豆や酒粕、青カビチーズといった特定の発酵食品に多く含まれることが確認されている。今後、発酵食品の摂取と気分状態に関する調査研究や、LHジペプチドやLHジペプチド高含有な食品素材を用いたヒトでの効果検証を行うことで、日常生活を通じたうつ病予防法の開発が期待される。
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