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新生児の「におい」をストレスフリーに採取し、化学的に解明-神戸大ら

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2019年09月09日 PM12:45

新生児の「におい」はコミュニケーション形成に影響するかを検証

神戸大学は9月4日、生後間もない赤ちゃんの頭の「におい」を、非侵襲でストレスフリーに採取する方法を開発し、(GCxGC-MS)を用いて、その化学構成を世界で初めて明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院理学研究科の尾崎まみこ教授、上尾達也学術研究員、柳瀬詩穂子学部学生、人文科学研究科の大坪庸介教授と、浜松医科大学光尖端医学教育研究センターの針山孝彦特任教授、医学部附属病院の金山尚裕病院長、周産母子センターの鈴木一有講師、岩手大学理工学部の永田仁史教授、筑波大学人間系心理学域の綾部早穂教授らの研究グループによるもの。研究成果は「Scientific Reports」に掲載されている。


画像はリリースより

昆虫の研究に端を発したフェロモン研究の歴史が約60年になる現在も、「におい」による人のコミュニケーションについてはよくわかっていない。新生児が発信する「におい」の、始原的オラリティーとしての存在と働きについては、出産・育児の経験中に主観的に気づくことはあっても、実際に科学的に調べるには倫理的問題や技術的問題を解決せねばならず、ほとんど着手されてこなかった。近年、新生児の肌着の匂いが女性に好ましい心理的効果を示すことが報告されたが、決め手となる「におい」の探索もされず、脳計測などによる生理学的裏づけも乏しいままだった。

研究グループは、実際的な問題を克服するため、2年前から分野横断的な研究体制を組み、議論を深めながら専門性を活かした対策を講じてきた。国内外で深刻な社会問題となっている育児放棄や愛着問題などの解決のために、新生児と共在する母親やそれに代わる庇護者との初期コミュニケーション形成の大切さを踏まえて、新生児が発信する「におい」に注目した研究の成果を役立てることができるのではないかと考えた。

「におい」の37成分を同定、新生児のにおいは揮発性の高い成分を含む

研究ではまず、新生児の頭から非侵襲、ストレスフリーに「におい」を採取する方法を開発。次に、浜松医科大学の倫理規定に則り、母親の同意のもと、生後1時間以内と2、3日後の新生児の頭5例の「におい」を、非侵襲なモノシリカ吸着剤を用いたストレスフリーの手法で採取。同時に、母親の羊水の「におい」2例をヘッドスペース法で採取した。これらの「におい」サンプルをGCxGC-MSで分析、37種の成分を同定した。

実験で同定した37の成分には、、それらの酸化物、炭化水素などの化学成分が含まれていた。それらの成分の含有量を算出し、全体のパターンを「におい」のサンプルごとに比較した。その結果、新生児の頭の「におい」は、より揮発性の高い成分によって、羊水の「におい」は、より揮発性の低い成分によって構成されていることがわかったという。また、この2つのにおいは、それぞれある程度の類似性を示したが、新生児の頭の「におい」において、生後1時間以内と2、3日後を比べると、前者にはアルデヒド類が、後者にはその酸化物が増えているという違いがみられた。

さらに、研究グループは化学分析結果から、生後1時間の新生児の「におい」、生後2、3日後の新生児の「におい」、母親の羊水の「におい」を模した調香品を作成。男女各31人ずつの学生に、出生後の時間経過による「におい」の変化や、羊水の「におい」との違いを人(ヒト)がどの程度識別できるかを調査し、3通りの調香品相互の類似度を定量的に示した。

研究グループは今後、さらに、新生児の頭の「におい」のサンプル数を増やした化学分析を行って、父母、兄弟、親戚といった新生児の血縁者や、年齢、結婚歴、育児経験などが異なる参加者が新生児の個体の差を「におい」で識別できるかどうか、心理学的研究の精度を上げるとともに、この「におい」の心理学的効用の生理学的な根拠を明らかにする研究を展開していく予定。「身近なところでは、新生児の頭のにおいの効用を利用した機能的な香りを伝達または配送する方法を開発し、人々の生活の中で有効に用いることができるようになると考えている」と、研究グループは述べている。

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