■新事業をスタート
滋賀県薬剤師会は7月から、地域の医療・介護施設間で患者情報を電子的に共有する「びわ湖あさがおネット」を活用し、より良い薬物療法の実践を目指す事業を開始した。大津市や草津市にある五つの基幹病院と薬局が連携し、同ネットの機能を積極的に活用した入退院時や院外処方箋調剤時の情報共有の枠組みを構築。在宅医療でも同ネットを通じた多職種連携を推進するほか、登録患者が増えるよう県下の全薬局で来局者への声かけも行う計画だ。
厚生労働省の「薬局の連携体制整備のための検討モデル事業」として滋賀県から委託を受け、事業を展開する。来年2月まで事業を実施し、様々な指標で成果を検証する。十分な成果につなげるため、来年度以降も事業を拡大して続ける考えである。
今年度は、地域を限定して同ネットの活用推進に取り組み、滋賀医科大学病院、大津赤十字病院、市立大津市民病院、ひかり病院、草津総合病院の五つの基幹病院や薬局、介護関連施設間の連携強化に役立てる。
同ネットは、滋賀県下の病院、診療所、薬局、訪問看護ステーション、介護系事業所、地域包括支援センターなどの間で、同意を得た患者の診療・介護・療養情報を電子的に共有する仕組み。基幹病院は、▽患者基本情報▽アレルギー▽病名▽退院サマリ▽看護サマリ▽処方・注射・検査のオーダ情報▽各種検査結果レポート――などの情報を開示し、薬局側も調剤情報を開示する。システム内の安全なメールを使い、必要な情報を利用者間で個別にやりとりできる機能もある。
今回の事業は、情報共有機能を十分に活用し、患者を取り巻く各施設・職種間の連携強化を図ることが狙いだ。滋賀県薬常務理事の村杉紀明氏は、「連携の基点としては入院時、退院時、外来患者の院外処方箋応需時、在宅医療の四つが考えられる。それぞれの連携の枠組みを作りたい」と語る。
入院時には薬局から病院に対して調剤上の工夫や服薬状況などの情報を提供。病院側は情報を持参薬や術前中止薬の管理などに活用する。村杉氏は「病院から連絡を受けて、薬歴サマリのPDFをメールで送るなどの連携が想定される」と話す。
退院時には、薬局が必要な情報を病院から得る。同ネットでの開示情報を閲覧するほか、退院時カンファレンスの情報、入院中の中止・変更薬を記載した薬剤管理サマリなどをメール機能で共有し、在宅医療への円滑な移行に役立てる。
外来患者の院外処方箋応需時には、同ネットで把握した病名や検査値などの情報を、薬局薬剤師が疑義照会や処方提案に反映する。外来化学療法や吸入療法での連携推進や、3剤併用による急性腎障害の発現防止など、様々な切り口で深い関与が可能になるという。
在宅医療では、診療所や訪問看護ステーション、介護サービス事業所等と薬局間で、各種文書や画像、動画などの情報を共有する。連携の窓口として、会営薬局には在宅支援センターを新設した。薬剤師の在宅関連業務を支援するほか、基幹病院の薬剤部や地域連携室の担当者らと連絡を取り合い、情報共有の具体的な枠組み作りを推進する役割を担う。
情報共有によって、より良い薬物療法を実践できた症例など、好事例の収集にも取り組む。同ネットに参加する施設数はまだ十分とは言えず、好事例を示して診療所などの参加を後押しする考え。現在は23%にとどまる薬局の参加率向上にも力を入れる。
同ネットの登録患者が増えるよう県下の全薬局で来局者への声かけも行う計画だ。背景には、滋賀県薬が2017年度から開始した「まかせてよ!もっと身近に薬剤師」推進事業がある。医師会など各団体と連携して毎月の健康生活提案イベントを設定。啓蒙資材や手順書などを各薬局に郵送し、健康サポート活動の実践を後押ししてきた。各薬局は、健診や歯科受診の参加を呼びかけるなど、地域住民に様々な声かけを行っている。
滋賀県薬会長の大原整氏は「健康な人にも薬局に来てもらえる体制を整備したい。医療が必要になった時に薬局が支援するためには患者を中心とした施設間の十分な連携が欠かせない。こうした全体構想の一環として今回の事業を企画した」と話している。