心筋細胞などの萎縮原因TRPC3-Nox2タンパク質複合体を阻害
生理学研究所は9月4日、抗ぜんそく薬「イブジラスト」が、心筋細胞や骨格筋細胞を萎縮させる原因となるTRPC3-Nox2タンパク質複合体の形成を阻害し、抗がん剤の副作用による心筋や骨格筋の萎縮を軽減することをマウスで確認した発表した。この研究は、同研究所の西田基宏教授(九州大学教授兼務)が、静岡県立大学、大阪府立大学、東京大学と共同で行ったもの。研究成果は「British Journal of Pharmacology」に掲載されている。
画像はリリースより
加齢や栄養不良、慢性閉塞性肺障害、がん関連悪液質、糖尿病、腎不全、心不全、クッシング症候群、敗血症、熱傷、外傷などによって、筋肉や臓器の萎縮が全身的に生じる。筋肉や臓器の萎縮は、しばしば日常生活に支障をきたし、病状の悪化につながることがあるが、有効な治療法は確立されていない。研究グループはこれまで、心筋萎縮の分子メカニズム解明について研究を進めてきた。活性酸素種(Reactive Oxygen Species:ROS)の生成酵素である細胞膜タンパク質NADPHオキシダーゼ2(Nox2)の分解が抑制されると、ROSの生成が促され、筋萎縮が誘導される。研究グループは、これまでの研究で、細胞膜上に存在するCa2+透過型カチオンチャネル(transient receptor potential canonical(TRPC)3)が、Nox2と相互作用し複合体を形成することで、Nox2タンパク質の分解を抑制していることを報告している。さらに、このTRPC3-Nox2複合体は、低酸素や抗がん剤「ドキソルビシン」によって増加し、ROS生成を促すことで、心筋の萎縮を誘導することも明らかにしてきた。
タバコ副流煙による活性酸素の産生とNox2発現を抑制
今回、研究グループは、心筋の萎縮を誘導するTRPC3-Nox2複合体の形成を阻害する化合物を既承認薬の中から探索し、その有効性を検証した。独自の方法で薬の探索を行った結果、抗ぜんそく薬「イブジラスト」がTRPC3-Nox2複合体の形成を阻害することが判明した。ドキソルビシン投与により、心筋細胞および骨格筋細胞ともに萎縮が認められたが、イブジラストの投与により、これらの筋萎縮が有意に抑制された。
マウスを用いて検討したところ、ドキソルビシン投与により体重減少が確認され、その3日前からイブジラストを投与することで、ドキソルビシンによって引き起こされた体重減少が有意に回復した。ドキソルビシン投与2週間後の時点における臓器重量を測定した結果、イブジラスト投与により、心臓重量と骨格筋重量、脾臓重量の減少が有意に軽減された。骨格筋における活性酸素の産生を検討したところ、ドキソルビシンによって活性酸素の増加が確認され、イブジラスト投与によって活性酸素の産生が抑制されることが明らかになった。また、心筋細胞にタバコ副流煙を暴露させると活性酸素の増加とNox2の上昇が認められた。イブジラストの投与によりタバコ副流煙による活性酸素の産生とNox2の発現が有意に抑制された。
今回の結果より、ドキソルビシンやタバコ副流煙によってTRPC3とNox2の複合体が形成され、心筋毒性や骨格筋萎縮、マクロファージ細胞死が引き起こされることが明らかとなった。また、「イブジラストによりTRPC3-Nox2複合体の形成を阻害することで、抗がん剤による筋肉・臓器の消耗といった副作用を軽減する可能性が示された」と、研究グループは述べている。
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・生理学研究所 プレスリリース