在宅死の希望者増、制度の見直しも視野に
東京大学は8月30日、全国の介護給付費実態調査と人口動態統計死亡票等の代表性のあるリアルワールドデータを用いて分析し、死亡前3か月間に訪問介護を利用すると在宅死の確率が高くなることを明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科社会医学専攻公衆衛生学分野の小林廉毅教授と阿部計大特任研究員らが、筑波大学などと共同で行ったもの。研究成果は「BMJ Open」に掲載されている。
先進国では 2050年までに約4人に1人が65歳以上の高齢者になり、日本では同年までに約2.5人に1人が高齢者になると推計されている。この人口構造の変化に伴い、多くの国では高齢者が満足感を持ちながら、望む場所で療養することができるように、医療・介護サービス提供体制の整備が進んでいる。
2012年に日本政府が行った55歳以上の男女を対象とした意識調査において、自宅で療養したいと答えた割合は34.9%、自宅で最期を迎えることを希望した割合は54.6%だった。この結果は、病院や施設を希望する人の割合よりも高い。また、高齢者が望む場所で療養して、最期を迎えることができたときに、その家族の満足度が高いことが報告されている。
一方で、日本において病死および自然死だった65歳以上の在宅死亡割合は12.3%で、73.4%が病院で最期を迎えている(2017年)。希望と現実には大きな隔たりがある。さらに、日本の高齢者の70%以上は、自身の在宅療養を検討する際に家族にかかる介護負担を気にかけている。そこで、研究グループは、介護保険制度の下で提供されている訪問介護サービスの利用が、高齢者の死亡場所にどのような影響を与えているかを検討した。
死亡前の訪問介護サービス利用者で在宅死の確率高まる
研究では、統計法による承認を得て、介護給付費実態調査と人口動態統計死亡票、医療施設調査、介護サービス施設・事業所調査の匿名個票データを用いた。さらに、公表されている国勢調査と市町村税課税状況等の調の集計データを用いて分析した。対象は、2010年1月から2013年12月の期間に病死および自然死で亡くなった介護保険第1号被保険者(65歳以上)161万3,391人で、これは対象期間に日本で亡くなった65歳以上の人数の37.7%にあたる。被説明変数は高齢者が自宅で亡くなったか否かとし、説明変数は死亡前月に訪問介護サービスを少なくとも1回以上利用しているかどうかとした。また、死亡2か月前、3か月前から継続的にサービスを利用していた場合についても調べた。また、操作変数法を用いて、死亡場所に対する選好の影響をできる限り除外した。
対象に占める在宅死亡者の割合は、死亡年度によらず約10.8%。また、死亡前月の訪問介護サービス利用者は21万3,848人、そのうちの27.3%が自宅で亡くなっていた。操作変数法による推定では、訪問介護サービスを利用しない場合と比べて、死亡前月に利用した場合は9.1%(95%信頼区間,2.9-15.3)、死亡2か月前からの利用の場合は10.5%(3.3-17.6)で、死亡3か月前からの利用の場合は11.4%(3.6-19.2)だけ在宅死亡の確率が高いことが明らかになった。
今回の研究結果は、自宅を最期の場所として望む者にとって訪問介護サービスが有用である可能性を示唆するもの。「日本の高齢者の多くが自宅での最期を望んでいるものの、実際には自宅以外の場所で最期を迎えていることを考慮すると、訪問介護サービスを利用しやすいように各自治体の環境を整え、自宅で療養し、自宅で最期を迎えたいと望む高齢者とその介護者を支援することが求められる」と、研究グループは述べている。
▼関連リンク
・東京大学大学院医学系研究科・医学部 プレスリリース