年内に2例目の移植を計画
大阪大学は8月29日、人工多能性幹細胞(iPS細胞)から作製した角膜上皮細胞シートの1例目の移植を実施したと発表した。これは、同大大学院医学系研究科・眼科学の西田幸二教授と、幹細胞応用医学の林竜平寄附講座教授らのグループによるもの。日本医療研究開発機構(AMED)「再生医療実現拠点ネットワークプログラム再生医療の実現化ハイウェイ」(iPS細胞を用いた角膜再生治療法の開発)および「再生医療実用化研究事業」(iPS細胞由来角膜上皮細胞シートのfirst-in-human 臨床研究)の支援のもと行われた。
画像はリリースより
角膜上皮の幹細胞が消失して角膜が結膜に被覆される「角膜上皮幹細胞疲弊症」は、ドナー角膜を用いた角膜移植での拒絶反応やドナー不足といった課題がある。このような課題を根本的に解決するために、研究グループはヒトiPS細胞を用いた角膜上皮再生治療法の開発を行っている。2019年3月、iPS細胞から角膜上皮細胞シートを作製し、角膜疾患患者に移植して再生する臨床研究計画に対して厚生労働省より了承が得られ、臨床研究を進めていた。
研究グループは、同年7月にヒトのiPS細胞から作製した角膜上皮細胞シートを角膜上皮幹細胞疲弊症の患者1人に移植。これは、世界初のiPS細胞を用いた角膜再生の臨床研究となる。この臨床研究は、京都大学iPS細胞研究所より提供された他人のiPS細胞を用いて、独自に開発した方法で角膜上皮細胞を誘導・培養してシート状にした角膜上皮組織の安全性と効果を検討するもの。この患者は、同年8月23日に退院し、引き続き、移植後の経過観察を実施していくという。また、年内に2例目の患者にiPS細胞由来角膜上皮シートを移植予定だ。
経過観察期間1年、終了後1年間の追跡調査を実施予定
同研究では、4例の重症の角膜上皮幹細胞疲弊症患者に対し、他家iPS細胞由来角膜上皮細胞シート移植を行う。最初の2例において、移植するiPS細胞シートとHLA型が不適合の患者に対して、免疫抑制剤を用いた移植を実施する計画。その後、1、2例目の中間評価を行い、続く2例におけるHLAの適合、不適合および免疫抑制剤の使用の有無を決定する。同研究の経過観察期間は1年で、終了後1年間の追跡調査を行う。同研究の主要評価項目は安全性で、研究中に生じた有害事象を収集して評価する。副次評価項目は、角膜上皮幹細胞疲弊症の改善の程度や視力などの有効性だ。
「ヒトiPS細胞由来の角膜上皮細胞シートを他家移植するFirst-in-Human臨床研究は、既存治療法における問題点、特にドナー不足や拒絶反応などの課題を克服できることから、角膜疾患のため失明状態にある多くの患者の視力回復に貢献することが期待される」、と研究グループは述べている。
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