クレアチニンより有効なバイオマーカーを探索
国立循環器病研究センターは8月27日、急性心不全患者における腎機能悪化と脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP)の内在分子の比率の変動の関連性を初めて明らかにしたと発表した。この研究は、同センターの髙濱博幸心不全科医師、泉知里心臓血管内科部長、南野直人創薬オミックス解析センター特任部長らの研究グループによるもの。研究成果は、米国の科学誌「Journal of American Heart Association」に電子版に掲載された。
画像はリリースより
心不全患者における入院中の腎機能悪化(Worsening renal function:WRF)は、しばしば認められる重要な合併症のひとつ。心不全の治療入院中に急激に腎機能悪化を起こす率が高く、心不全患者の長期予後にも悪影響をおよぼすため、その早期発見は重要な課題とされてきた。腎機能の評価は血中のクレアチニン濃度に基づき評価する方法が一般的だが、クレアチニンは、年齢や体重、筋肉量などの影響を受ける点や、腎機能悪化からクレアチニン上昇までに時間を要する点などが問題だった。そのため、より早期に腎機能悪化を発見する腎機能評価法やバイオマーカーの確立が望まれている。
活性型BNPとNT-proBNPの比率が腎機能悪化と関連
心不全患者は、心臓でBNPの産生が亢進するため、BNPは心不全のバイオマーカーとして世界中で広く利用されている。BNPは心筋細胞内で前駆体(ProBNP:BNPの基となる物質)として合成され、活性型BNPと非活性型であるNT-proBNPに切断されて放出される。この2つの分子は、心不全のバイオマーカーとして広く利用されているが、その代謝経路には大きな差異があった。そこで研究グループは、心臓から産生・分泌されるこの2つの分子の代謝の差異が腎機能と関連すると考え、この現象が心不全患者の腎機能悪化の予測に利用できるとの仮説を立て、検証を行った。
研究グループはまず、ProBNPを特異的に測定する方法を開発。この方法と総BNP(total BNP)濃度を用いて、活性型BNP推定値(推定活性型BNP=総BNP-ProBNP)の算出を可能にした。そこで、入院後の研究説明に同意を得た患者から計4回の血液採取を行い、この推定活性型BNP、NT-proBNPの濃度と腎機能の推移を検討。NT-proBNPは入院後、WRF発症者と非発症者の間で差異を認なかったのに対して、推定活性型BNP濃度はWRF発症者で低下を認めたという。
さらに両者の比率(NT-proBNP/推定活性BNP)は、クレアチニンを基に計算された推定糸球体濾過量の上昇よりも早期に上昇することを見出した。さらにこの現象(NT-proBNP/推定活性型BNP比率と腎機能の関係)は、心不全の重症度の高い患者(NT-proBNP中央値より高値の患者)で、より顕著に認められていたことがわかった。「今回の研究によって得られた知見は、急性心不全の急性期における腎機能の評価法や指標になると期待されるが、メカニズムの解明にはさらなる検証が必要だ」と、研究グループは述べている。
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・国立循環器病研究センター プレスリリース