煩雑なリソソーム動態解析を簡便にしてリソソーム病解明に役立てたい
千葉大学は8月23日、細胞内タンパク質の分解量を蛍光タンパク質によって簡便に解析できる手法を開発したと発表した。この研究は、同大大学院理学研究院の板倉英祐助教らの研究グループによるもの。研究成果は、英電子版科学誌「サイエンティフィック・リポーツ」に掲載されている。
画像はリリースより
細胞が合成する、たくさんのタンパク質のうち、不要になったものは、細胞内小器官のリソソームに取り込まれ、酵素の力を借りて分解される。しかし、加水分解酵素に異常があると、タンパク質が通常通り分解できなくなり、リソソーム病の発症につながる。リソソーム病は、厚生労働省から特定疾患の「難病」に指定され、現在までに40種類もの疾患が存在することがわかっているが、リソソーム内の活性の測定法には煩雑なものが多く、リソソームの動態を研究する上で制約になっていた。
リソソーム活性が正常だと橙色、高いと赤色、低いと黄色に変化
今回研究グループは、緑色と赤色の蛍光タンパク質を組み合わせたタンパク質プローブ「Lysosomal-METRIQ」を開発。 Lysosomal-METRIQは、リソソームタンパク質(DNaseIIα)、緑色蛍光タンパク質(GFP)、自切配列T2A、赤色蛍光タンパク質(RFP)を直鎖状に融合させたコンストラクトで、細胞内に発現させると、タンパク質翻訳後に小胞体内へ移行する。T2A配列は自己切断されるため、その後ろに位置するRFP部位は細胞質に残る。これにより、1つのタンパク質から、前半部のGFP融合リソソームタンパク質は小胞体内へ、後半部のRFPは細胞質へ異所的に等量の発現をさせることができる。
GFP融合リソソームタンパク質は正常なリソソームに運ばれるとGFPがほとんど分解される。リソソーム活性が低下しているとGFPが分解されずに残り、逆にリソソーム活性が増加するとGFPは完全に分解される。RFPは細胞質内に存在するため、リソソームの活性変化に関係なく内部標準として利用する。これにより、細胞1つ当たりのGFP存在量とRFP存在量をフローサイトメーターによって測定するだけで、細胞内のリソソーム活性を定量できる。つまり、細胞あたりの各蛍光強度を測定して合算すると、正常な細胞は橙色に、リソソーム活性が低い細胞は黄色に、高い細胞では赤色へ変化する。
リソソーム病メカニズム解明から薬剤探索まで幅広い応用に期待
この手法は、細胞内輸送の研究にも応用可能だ。Lysosomal-METRIQはGFP融合タンパク質を小胞体からリソソームへ輸送する際の評価系としても機能する。その輸送経路が正常である場合、GFP融合タンパク質はリソソームの分解酵素によって速やかに分解され、蛍光を消失する。一方で細胞内のストレスにより輸送経路に何らかの機能障害が起きると、GFPは輸送経路の途中で蓄積し、蛍光色も変化する。このように、GFP蛍光のシグナル強度や蓄積場所を通して細胞内リソソーム経路の異常を判別することも可能になる。実際に、この解析手法により研究グループは、CDK5(cyclin dependent kinase 5)と呼ばれるタンパク質がリソソームの恒常性維持に貢献していることを発見した。
「従来と比べて簡便かつ定量的にリソソーム活性の測定が可能になったことで、今後はリソソームの動態変化の研究、細胞ストレスの評価、薬効評価のスクリーニングなど、基礎研究から治療に有効な薬剤探索まで、幅広い用途で活用されることを期待している」と、研究グループは述べている。
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