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絶食で経口ワクチンの効果が消失、食事介入による新たなワクチン接種法開発へ-慶大ら

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2019年08月27日 AM11:30

絶食と再摂食が免疫系にもたらす影響を解析

慶應義塾大学は8月23日、腸管の健康維持に重要な抗原特異的な免疫応答が、絶食によって消失する仕組みを発見したと発表した。この研究は、同大薬学部の永井基慈(博士課程学生)、長谷耕二教授、土肥多惠子客員教授、(NCGM)肝炎・免疫研究センター消化器病態生理研究室の河村由紀室長を中心とする研究グループによるもの。研究成果は、国際学術誌「Cell」に8月22日付で掲載された。

世界には、必要最低限の栄養の確保が困難な絶対的貧困に位置する人が約7億人おり、国際的な問題となっている。さらに、紛争や飢饉によって極端な低栄養状態にある子どもは感染症にかかりやすく、ワクチンにより得られる効果が低いことも報告されている。

一方で、近年の研究から、絶食を「しないこと」が代謝だけでなく免疫系の異常も引き起こすことが指摘されており、短期間の絶食によってこれらの異常を改善することが報告されている。このように、栄養シグナルによって免疫系が制御されていることが示唆されているが、絶食とそれに続く再摂食が免疫系にもたらす影響はほとんど解明されていなかった。


画像はリリースより

絶食によりパイエル板の活性化B細胞が消失

研究グループはまず、-再摂食期間に腸管の免疫を担う細胞がどのように振る舞うかに着目して研究を行った。マウスによる実験の結果、絶食によってパイエル板の全てのB細胞集団が顕著に減少することを発見。興味深いことに、再摂食時にはナイーブB細胞だけが、急速に細胞数を回復させることもわかった。小腸のパイエル板は、免疫系の記憶形成に重要な組織として知られている。口から入った抗原はパイエル板で取り込まれ、ナイーブB細胞に提示される。抗原の提示を受けたナイーブB細胞が胚中心B細胞を経て抗原に特異的なIgA陽性のB細胞へと成熟することで抗原特異的な抗体産生細胞が形成される。

さらに、パイエル板における死細胞の観察から、絶食時に顕著に細胞死が起きていることを見出した。細胞死は再摂食時に回復の遅かった胚中心B細胞が多く集まる領域に集中して観察された。免疫担当細胞のうち、胚中心B細胞のような活性化細胞はエネルギー要求性が高いと知られている。絶食時には利用可能な栄養が限られており、脳や心臓といった生きるために不可欠な組織への栄養を確保するために、粘膜免疫系の細胞を減らすことでエネルギーを節約していると考えられるという。

「栄養介入」という新たなアプローチによるワクチン開発に期待

研究グループは次に、ナイーブB細胞の振る舞いに着目。再摂食時に急速にパイエル板での細胞数を回復させたことから、一時的に他の組織に移動していると考えて研究を進めた。その結果、絶食時にナイーブB細胞は、ナイーブB細胞の遊走に重要なケモカインであるCXCL13の遺伝子発現変化に応じて骨髄へと移動していることを発見。この現象について研究グループは、絶食時にナイーブB細胞の一部を骨髄に一時的にリザーブしておくことで、再摂食によって栄養が利用できるようになった際に、迅速に免疫応答を担うようにしていると考察している。

最後に研究グループは、絶食が粘膜における獲得免疫(抗原特異的免疫)に与える影響を解析した。卵白抗原()とアジュバントによる経口ワクチンを投与することで、OVAに対して特異的なIgA抗体を誘導することができる。そこで、この誘導期間中に絶食を繰り返し、絶食がワクチン効果に与える影響を調べた。その結果、絶食を繰り返すことでOVA特異的なIgAの産生が抑えられたことから、絶食は経口ワクチンの効果を減弱させることが判明した。絶食時にはパイエル板において、OVA特異的な胚中心B細胞が失われることが原因だと考えられるという。

今回の研究は、飢餓に対して免疫系が適応する仕組みの一端を明らかにしたとともに、栄養シグナルによって免疫応答の制御が可能であることを示唆するもの。「今後研究を発展させることで、食事介入による効果的なワクチン接種方法の開発へつながることが期待される」と、研究グループは述べている。

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