■薬物療法の見直し契機に
兵庫県後期高齢者医療広域連合は今年度から2年間、重複投与やポリファーマシー(多剤併用)の患者に服薬状況を記載した通知書を送る事業をスタートさせる。病院や診療所、薬局に通知書を持参してもらい、薬物療法の見直しや適正化を促し、患者の不利益回避と医療費削減につなげたい考え。通知書は29日と来年2月下旬の年2回、宝塚市と伊丹市在住の75歳以上の患者に発送し、効果も検証する。地域全体でポリファーマシー適正化に取り組む宝塚市での効果に注目が集まりそうだ。
同事業では、広域連合が保有する宝塚市、伊丹市の被保険者の診療情報を委託先のデータホライゾンが解析し、対象患者を抽出する。抽出条件は、複数の医療機関から同じ期間に▽併用禁忌の医薬品▽同じ成分、同じ効能・効果の医薬品▽8剤以上の内服薬――が処方された患者。約2000人を対象として29日に通知書を発送する。
通知書には、表側に「医師や薬剤師にあなたが服用している全ての薬剤を知ってもらうため、医療機関や薬局にかかる時に、このお知らせとお薬手帳を持っていきましょう」と記載。裏側には、3月から5月に診療を受けた病院や診療所の名称、調剤薬を受け取った薬局の名称、処方された薬剤名や数量、日数、調剤日などの一覧を掲載する。期間内にどれだけの薬剤が処方されたのかがひと目で分かるようになっている。
被保険者が自己判断で服薬を中止しないように、通知書には併用禁忌や重複、多剤併用の注意喚起は記載せず、服薬状況を知らせるだけにとどめる。
来年2月下旬には、抽出条件などを見直した上で、新たな患者を対象に通知書を発送する予定。今年9~11月分の診療情報をもとに、3000~4000人の対象患者を抽出する。来年度も同様に、宝塚市と伊丹市の患者を対象に通知書を発送する計画である。
通知書の効果検証にも取り組む。同連合給付課の中西保美氏は「一番の目的は被保険者の健康増進だが、短期的には評価しづらいため、薬剤費の変化で効果を検証したい。薬剤費は毎年増えるが、通常の増加幅をどれだけ抑えることができたかが目安になる」と語る。
地域限定で2年間試行し、効果を評価した上で、2021年度以降に兵庫県全域を対象に通知事業を実施するかどうか検討する。2年間の試行事業には国の特別調整交付金を活用しているが、県全域で実施する場合には同連合からの費用拠出が必要となる。中西氏は「効果が見込まれるのであれば、費用を持ち出してやってもいい」との考えを示している。
参考になる取り組みが、先発品から後発品に切り替えた時の差額を被保険者に通知する事業だ。全国各地に広がっており、同連合でも12年から差額通知の発送を開始した。送付した患者の1~2割で後発品への切り替えが認められ、一定の効果がある。
中西氏は、「差額通知の場合は『あなたの薬代の負担が軽くなる』と記載しているため、通知を持参する患者が多いが、今回の通知書にはそこまでの記載はない。どの程度持っていってくれるかがカギになる」と話している。
患者から通知書を受け取った医師や薬剤師が、薬物療法の適正化にどこまで対応できるかもポイントになる。実施地域の一つである宝塚市では、15年以降、多職種が連携し地域全体でポリファーマシーの適正化に取り組んできた。医療現場の混乱を防ぐため、宝塚市では研修会を開き、患者から通知を受け取った時の対応を学んだ。
同様の通知事業はこれまでに高知県、鹿児島県、宮崎県、奈良県、広島県などで実施されている。