ADCCを介し、骨髄腫細胞の除去に働く抗体医薬
自治医科大学は8月20日、多発性骨髄腫の抗体薬であるエロツズマブの新たな作用機序を発見したと発表した。この研究は、同大幹細胞制御研究部の菊池次郎准教授、小山大輔講師、古川雄祐教授らと、茨城県立中央病院や大分大学、国立国際医療研究センター、東京女子医科大学、栃木県立がんセンター、東京大学、ブリストルマイヤーズスクイブ社との共同研究によるもの。研究成果は、Nature姉妹誌「Leukemia」のオンライン版に掲載されている。
多発性骨髄腫は、悪性リンパ腫に次いで2番目に多く発症する造血器腫瘍。国立がん研究センターによる5年生存率は36.6%と極めて不良なため、最近になって複数の抗体医薬が認可されている。エロツズマブはその中のひとつで、骨髄腫細胞に発現するSLAMF7に結合、抗体依存性細胞傷害活性(ADCC)を介し、骨髄腫細胞の除去に働くと考えられていた。しかし、より高い治療効果を得るため、さらなる作用機序の解明が重要な研究課題となっている。
骨髄腫細胞の増殖阻害に働き、病態悪化や再発予防を介して予後を改善
今回研究グループは、SLAMF7の細胞外領域が切断された可溶型SLAMF7が多発性骨髄腫患者血清中にのみ検出され、濃度の高い患者では予後が悪い点に着目。In vitroおよびマウスモデルに可溶型SLAMF7を加えたところ、骨髄腫細胞の増殖能が最大で約2倍に増加した。さらに、可溶型SLAMF7は骨髄腫細胞に発現するSLAMF7に結合し、増殖シグナルを伝達していたが、エロツズマブは、その増殖能亢進をほぼ完全に阻害していたという。
これまでエロツズマブの作用はADCCが主体と考えられてきたが、今回の研究の結果、同剤が骨髄腫細胞の増殖阻害に働き、病態の悪化や再発の予防を介して予後を改善するという新たな機序が明らかになった。「エロツズマブは可溶型SLAMF7濃度やSLAMF7発現の高い患者に、より大きな予後改善効果が期待できる。現在、臨床試験による検証を進めている」と、研究グループは述べている。
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