人間の思い通りに動かせる分子システムの構築を目指す
東北大学は8月20日、体温と同等の37℃で、人が設計したDNAを5,000倍以上に増やすことのできる人工細胞を構築したと発表した。この研究は、同大大学院工学研究科の野村 M.慎一郎准教授と、同大学院生佐藤佑介氏(研究当時)らと、東京工業大学情報理工学院情報工学系の小宮健助教らによるもの。研究成果は、英国王立化学協会刊行の国際学術雑誌「Chemical Communications」にオンライン版にて公開された。
画像はリリースより
DNAは一般に遺伝子をコードする分子として認識されている。一方で、DNAの塩基配列を人の手で設計することで、人工細胞や分子ロボットの機能を制御するための「信号分子」として使うこともできるとされる。しかし、人工細胞や分子ロボットの機能を制御するためには多量の信号DNAが必要であり、微量の信号DNAしか存在しない環境では人工細胞はうまく働くことができなかった。そのため、微量の信号DNAを検出し、その信号を人工細胞内部で増やすことのできる仕組みが必要とされていた。
37℃下で約2時間、DNAを5,000倍以上増やすことに成功
研究グループは、人の体温と同等の37℃でDNAを5,000倍以上に増やすことができる人工細胞を構築。この人工細胞には、人工細胞膜の内部に「DNA増幅回路」が組み込まれており、増幅回路のスイッチをONにする「入力信号DNA」を検出すると「出力信号DNA」を産出・増幅することができる。このような反応回路ではしばしばエラーが起こってしまうが、LNAという人工核酸をうまく組み込むことでエラーを防ぐことに成功した。
また、人工細胞の中にあらかじめ加える信号DNAの量をさまざまに変えながら、人工細胞の中で起こる増幅回路の性能を評価。そして、人工細胞が約2時間で5,000倍以上のDNAを増幅できることを確認した。さらに、人工細胞内部でのDNA増幅反応の開始を、光の照射で制御することにも成功。構築した人工細胞を、人の手で制御する技術開発へと一歩前進した。
今回の成果は、微量の標的分子を検出し、がんを診断・治療したり、ミクロな世界で働く分子ロボットを制御するための技術開発など、将来的には人工細胞研究のみならず、医学や工学など他分野へと波及していくものとして、期待が寄せられる。
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