心不全と急性心筋梗塞の新治療法として注目の「細胞治療」
名古屋大学は8月9日、心血管疾患において、これまで不明だった細胞外小胞が心筋細胞に取り込まれるメカニズムを明らかにしたと発表した。この研究は、同大学大学院医学系研究科循環器内科学の竹藤幹人助教、江口駿介客員研究者、室原豊明教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Journal of Biological Chemistry」電子版に掲載されている。
画像はリリースより
近年、喫煙、脂質異常症および高血圧などの心血管疾患における危険因子がより厳密に治療されてきたことで、心筋梗塞の発生率は減少してきているものの、心筋梗塞を含む心血管疾患は世界中で依然として主な死亡原因となっている。そのような状況下で、細胞治療は心不全および急性心筋梗塞を改善させる治療法として注目されてきている。
細胞治療源としての間葉系幹細胞は、細胞保護および血管新生に関与する可能性があるタンパク質や核酸(マイクロRNAを含む)を産生および分泌することが知られている。マイクロRNAは遺伝子の発現を調節する機能を備えている。間葉系幹細胞由来の分泌因子(マイクロRNAを含む)は、細胞外小胞に包埋されることで、安定した状態で血液・組織液中を移動でき、細胞間コミュニケーションに関与すると考えられている。しかし、細胞外小胞の心筋細胞への取り込みメカニズムは明らかにされていなかった。
クラスリン依存性エンドサイトーシスが重要と判明
研究グループは、心機能改善における細胞外小胞の役割を明らかにするために、間葉系幹細胞由来の細胞外小胞の心筋細胞への取り込みが急性心筋梗塞に及ぼす影響を調べた。最初に、間葉系幹細胞の1つである脂肪由来再生細胞(ADRC)の培養液を心筋細胞に加えて調べたところ、低酸素下での心筋細胞の損傷が抑制されることが判明。そこで、マウス心筋梗塞モデルの心臓にADRCを心筋内注射したところ、心臓梗塞領域が減少し、急性心筋梗塞後の心破裂が抑制された。35個の抗アポトーシス作用を有するマイクロRNAの発現量を測定した結果、マイクロRNA-214が ADRC中で最も多く発現していることが明らかになった。
次に、ADRCにおけるマイクロRNA-214を抑制し、同様の実験を行ったところ、心筋細胞に対するADRCの抗アポトーシス作用が抑制された。また、細胞外小胞の心筋細胞への取り込みを調べるために、蛍光色素で標識したADRC由来の細胞外小胞を加えて心筋細胞を培養した。その結果、低酸素条件下では心筋細胞中の細胞外小胞が増加すると判明。クラスリン依存性エンドサイトーシスの阻害剤を使用することで、標識細胞外小胞の取り込みおよびマイクロRNA-214の取り込みの両方が減少することが明らかになった。
今回の研究結果により、心筋細胞におけるクラスリン依存性エンドサイトーシスが、アポトーシスを阻害する細胞外小胞関連のマイクロRNAの取り込みにおいて重要な役割を果たすと示された。「ADRC由来の細胞外小胞が、損傷した心筋細胞にマイクロRNAを優先的に運搬するための有用な治療法となる可能性が示唆された」と、研究グループは述べている。
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