MT-3921、脊髄損傷の有効な治療薬となるか
大阪大学は8月8日、ヒト化抗RGMa抗体である「MT-3921」について、脊髄損傷患者を対象とする第1相臨床試験計画を、田辺三菱製薬株式会社が米国食品医薬品局(FDA)に提出したと発表した。同剤は、同大大学院医学系研究科分子神経科学の山下俊英教授の研究グループと田辺三菱製薬の共同研究によって生まれたプロダクトだ。
画像はリリースより
脊髄損傷は自動車事故、転落・転倒、スポーツ関連事故および暴力等による傷害が原因で生じる疾患。その損傷の程度はさまざまで、運動麻痺、感覚の喪失および膀胱直腸機能の障害をもたらすことがある。また、脊髄損傷は患者本人の健康に影響するだけでなく、家族にも多大な負担が生じるものである。現時点では脊髄損傷に対してFDAから承認されている医薬品はなく、現在の治療は、脊椎の外科的安定化、集中的な神経学的リハビリテーション、急性期および慢性期の合併症の予防と治療に焦点が当てられている。一方、外傷性神経麻痺については未だに治癒手段がない。そのため、有効性および安全性が高い新しい治療法が望まれている。脊髄損傷は再生医療の主要な治療目標として近年多くのアプローチがなされているが、未だ有効な治療法として確立された段階にはないとされる。
動物モデルでの検証で、運動機能障害の改善および神経再生の促進効果
MT-3921は、同研究グループの基礎研究成果をもとに、2005年より共同で創薬したヒト化抗RGMa抗体。RGMa(Repulsive guidance molecule A)は1990年代には生体内物質として認識されていたが、長らくその役割は解明されていなかった。それが近年の研究の進展により、神経細胞の生存および再生を阻害し、炎症作用の亢進にも関わることが明らかとなり、脊髄損傷、脳梗塞、多発性硬化症などの神経疾患の病態を悪化させる役割をもつことが非臨床研究にて示されている。
同剤の動物を用いた疾患モデルでの検討の結果、ラットおよびサルの各種動物モデルにおいて、脊髄損傷に起因する運動機能障害の改善効果および神経再生の促進効果が示された。田辺三菱製薬はすでに、日本で健康成人を対象とするMT-3921の第1相臨床試験を開始している。米国での臨床試験は、田辺三菱製薬の開発子会社である「ミツビシ タナベ ファーマ ディベロップメント アメリカ」(MTDA)が実施予定。今後、同剤の研究開発を加速させ、脊髄損傷の新たな治療選択肢になることに期待が寄せられている。
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