絶対音感では「音高の言語化」が行われているのか?
新潟大学は8月7日、絶対音感の脳機能を左右の脳波で測定・記録し、絶対音感では、音楽の音も、言語と類似な処理をしている可能性を示したと発表した。この研究は、同大脳研究所統合脳機能研究センターの伊藤浩介特任准教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Frontiers in Neuroscience」誌に掲載された。
画像はリリースより
絶対音感とは、比較する音がなくても、音の音名を早く正確に判断する能力。音楽家が持つことから、これまで音楽的な能力と考えられてきた。しかし、脳機能の観点から、絶対音感保持者の脳が行っているのは、連続的な音高を半音単位で人為的に区切り、名前を付ける「音高の言語化」という見方もできる。つまり、絶対音感を、言語機能の1種と見なすことができる可能性がある。実際、絶対音感を訓練で獲得しやすい時期は、子供が母国語を習得する時期と一致しているという。
絶対音感では、ドの音高に対して左半球優位な脳応答
今回研究グループは、この絶対音感を言語機能とみなす考え方が正しいのか検証を行った。まず、ドの音高を聞いた時に生じる脳応答につき、左右の聴覚野(音を処理する大脳部位)から発生する脳波反応(聴覚誘発電位)である、N1cという成分を記録した。N1cの大きさは、非言語音については左右半球で同等だが、言語音については左半球優位であることが知られている。これは、左の聴覚野が、言語処理に関わるためである。
検証の結果、絶対音感のない音楽家や、音楽経験のない人では、ドの音高に対するN1c反応に左右差はなかった。一方で、絶対音感のある音楽家では、その応答が左優位だった。これは、絶対音感保持者は、ドレミなどの音を、まるで言語のように処理していることを示すという。さらに詳しく解析すると、絶対音感保持者で左優位なN1cが生じたのは、左のN1cが大きいのではなく、右のN1cが通常よりも小さいことが原因であることがわかった。これにより、右聴覚野の脳活動をあえて抑制することで、左聴覚野の言語機能が働きやすくなると推測された。
絶対音感で音高に音名が付くメカニズム、左右の聴覚野の役割、絶対音感を獲得するとき脳では何が起こっているのかなど、絶対音感の脳の仕組みについては、まだ解明されていないことが多い。「これらを解明するには、絶対音感を、脳の言語機能との関連から調べていくことが重要だと考えられる」と、研究グループは述べている。
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