IL-31が脳にかゆみの感覚を伝えるメカニズムを研究
九州大学は8月9日、アトピー性皮膚炎の主要なかゆみ惹起物質であるIL-31が、脳に「痒みの感覚」を伝える際、ニューロキニンBという物質が必要であることを世界に先駆けて発見したと発表した。この研究は、同大生体防御医学研究所の福井宣規主幹教授、坂田大治助教の研究グループが、同大医学研究院の古江増隆教授、富山大学大学院医学薬学研究部の安東嗣修准教授と共同で行ったもの。研究成果は、「Journal of Allergy and Clinical Immunology」に同日付で掲載された。
画像はリリースより
アトピー性皮膚炎は国民の7~15%が罹患している国民病であり、そのかゆみをコントロールするための創薬ニーズは極めて高いといえる。これまで、かゆみ研究はヒスタミンを中心に進んできたが、アトピー性皮膚炎のかゆみの多くは抗ヒスタミン剤(H1ヒスタミン受容体遮断薬)では抑制されないことから、別のかゆみ物質の存在が示唆されてきた。こうした中、アトピー性皮膚炎と関連した新しいかゆみ物質としてIL-31が注目されている。IL-31は主にヘルパーT細胞から産生され、その受容体は感覚を司る脊髄後根神経節に高発現することが報告されているが、IL-31がどうやって脳にかゆみの感覚を伝えているかは不明だった。
ニューロキニンBが、IL-31によるかゆみ感覚を選択的に伝達
研究グループは以前から、DOCK8という分子を欠損した患者が重篤なアトピー性皮膚炎を発症することに着目し、このタンパク質の機能解析を進めてきた。この中で、DOCK8が発現できないように遺伝子操作したマウス(Dock8–/–)では、DOCK8を発現したマウス(Dock8+/–)と異なり、掻破行動を伴う重篤なアトピー様皮膚炎を自然発症し、血中のIL-31が異常高値を示すことを明らかにしている。そこで今回、これらのマウスから脊髄後根神経節を単離し、その遺伝子発現を解析したところ、Dock8–/–の脊髄後根神経節において発現が上昇する遺伝子が698種類あり、その上位2番に位置していたのが、ニューロキニンBをコードする遺伝子だった。興味深いことにDock8–/–であっても、遺伝子操作でIL-31受容体やIL-31の発現を無くした場合には、この遺伝子の発現上昇は認められなかった。このことから、ニューロキニンBが、IL-31刺激依存的に、脊髄後根神経節で産生されることが明らかになった。
次に、IL-31によるかゆみ感覚の脳への伝達に、ニューロキニンBが本当に重要なのかを調べるため、ニューロキニンBを発現できないように遺伝子操作したマウスを作製したところ、通常のマウスに比べて、IL-31投与による引っ掻き行動が顕著に低下していた。一方、他のかゆみ惹起物質(ヒスタミンやクロロキン、PAR2作動薬)に対する反応性は、両者の間で違いを認めなかった。このことから、ニューロキニンBは、IL-31によるかゆみ感覚の伝達に選択的に関わっていることが明らかになった。
これまで多くのかゆみ惹起物質が、NppbやGRPという神経伝達物質を使って、かゆみの感覚を脳に伝えていることが知られている。そこで研究グループは次に、これらの神経伝達物質とニューロキニンBの関係性について検討した。ニューロキニンBをマウスの脊髄腔に注射すると、引っ掻き行動が誘発されるが、これはGRPの受容体を発現する神経細胞を前もって除去しておくと、低下した。一方、Nppbの受容体を発現する神経細胞を前もって除去しておいても、ニューロキニンBによる引っ掻き行動には、影響がなかった。このことから、ニューロキニンBはGRPの上流で機能し、GRPを使って、IL-31によるかゆみ感覚を脳へ伝達していることが示唆された。
NK3R阻害剤でIL-31によるかゆみを抑制
ニューロキニンBは、NK3Rという受容体を介して、シグナルを細胞内へ伝える。最後に研究グループは、NK3R阻害剤でIL-31によるかゆみが抑えられるかを検討した。これまでに多くのNK3Rの選択的阻害剤が開発されている。そのひとつであるオサネタントは、精神疾患の薬として開発され、これまで大きな副作用は報告されていない。オサネタントをマウスに投与したところ、ヒスタミンやクロロキン、PAR2作動薬による引っ掻き行動には、全く影響がなかった一方で、IL-31による引っ掻き行動は顕著に抑制された。同様の結果は、他のNK3R阻害剤を用いた場合にも得られたという。研究グループは、「NK3R阻害剤は、アトピー性皮膚炎の痒みをコントロールするための、新たな選択肢となることが期待される」と、述べている。
▼関連リンク
・九州大学 研究成果