ROS1-G2032R耐性変異に対する有効薬剤の開発
がん研究会は8月9日、次世代ROS1/NTRK阻害薬として創製した「DS-6051b」が、ROS1チロシンキナーゼとNTRKチロシンキナーゼを低濃度で阻害し、試験管内および動物実験において、腫瘍縮小効果を発揮することを示したと発表した。この研究は、がん研究会 がん化学療法センター基礎研究部の片山量平氏らの研究グループと第一三共株式会社の共同研究によるもの。研究成果は、「Nature Communications」に、8月9日付で公開された。
画像はリリースより
進行非小細胞肺がんの約1%に見つかる強力ながん遺伝子「ROS1融合遺伝子」は、ALK/ROS1阻害薬のクリゾチニブ(製品名:ザーコリ(R))が臨床試験において非常に高い効果を示し、承認されて臨床で使用されている。しかし、ほとんどの症例において1年から数年以内にクリゾチニブに耐性の腫瘍が出現し、再増悪してしまうことが問題となっている。その耐性機構で最も多く認められているのが、ROS1におけるG2032R変異などであるが、この耐性変異に対する有効な薬剤はないのが現状だ。
研究グループはこれまでに、細胞レベルの実験において、甲状腺がんおよび腎臓がんの治療薬として承認されているマルチキナーゼ阻害薬「カボザンチニブ」がROS1-G2032Rに対して比較的高い阻害活性を示すことを発見し報告してきた。しかし、カボザンチニブは、動物モデル等における有効性が不明であり、また臨床的にもしばしば副作用等により、投薬用量を制限する必要が生じているため、ROS1のG2032R耐性変異を克服できる薬剤の開発が期待されている。
マウス実験ではDS-6051bを連日経口投与で腫瘍縮小
DS-6051bは、選択性の高いROS1/NTRKキナーゼ阻害薬の新薬候補化合物として第一三共が創製。試験管内でのキナーゼアッセイの結果、ROS1を1nM以下の低濃度で阻害する活性を持つことが明らかとなった。さらに、NTRK1、NTRK2、NTRK3についても、10 nM以下の低濃度で阻害することが確認された。ROS1、NTRK以外には、ALKやACKの阻害活性も見られたが、それら以外のキナーゼに対する阻害活性は弱く、選択性の高いROS1/NTRK阻害薬であることがわかった。
次に、IL-3依存的に増殖するマウスProB細胞のBa/F3細胞に、CD74-ROS1融合遺伝子を導入し、IL-3無しでもCD74-ROS1融合遺伝子からの増殖シグナルに依存して増える細胞株を樹立し、薬剤感受性を比較。その結果、DS-6051bはクリゾチニブよりも約3倍低い数nMの濃度で増殖抑制することが判明。また、がん研究会有明病院呼吸器内科およびマサチューセッツ総合病院がんセンターの協力により、同意が得られた患者からROS1融合遺伝子陽性肺がん細胞株を複数樹立。これらを用いて、DS-6051bを含むさまざまなROS1阻害薬への感受性を比較した結果、DS-6051bはロルラチニブに次ぐ低濃度で阻害活性を示した。さらに、ROS1融合遺伝子陽性肺がん患者由来の腫瘍を移植されたマウスに、DS-6051bを連日経口投与すると、腫瘍が縮小した。また、NTRK1融合遺伝子を有する大腸がん細胞株KM12を用いた検討においても、10nM以下の濃度での細胞株の増殖抑制と、KM12細胞を移植したマウスでの抗腫瘍効果が確認された。
さらに研究グループは、クリゾチニブ耐性を示す5種類のROS1変異(L1951R、S1986F、 L2026M、G2032R、D2033N)型CD74-ROS1をBa/F3細胞に発現させて薬剤感受性を評価。その結果DS-6051bは、D2033N以外の変異型CD74-ROS1発現Ba/F3細胞の増殖を20 nM以下の低濃度で阻害し、特にG2032Rに対しては、他のROS1阻害薬と比較して最も低い濃度で細胞増殖抑制とリン酸化ROS1の減少を認め、CD74-ROS1-G2032R発現Ba/F3細胞を移植したマウスで、DS-6051bの経口投与により腫瘍の縮小を確認。また、ROS1融合遺伝子陽性肺がん細胞株HCC78細胞にG2032R変異型ROS1を過剰発現した細胞を移植したマウスにおいても、DS-6051bの経口投与により、長期にわたる腫瘍縮小の維持が確認された。
DS-6051bは日本および米国を中心に、ROS1融合遺伝子陽性またはNTRK融合遺伝子陽性がんを対象に臨床試験が行われており、今後実用化されるためには安全性と有効性を引き続き評価していく必要がある。「本研究の結果は、ROS1融合遺伝子陽性またはNTRK融合遺伝子陽性肺がんの将来的な治療開発に貢献しうる成果だ」と、研究グループは述べている。
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