既存法よりもさらに鮮明な放射線照射画像は臨床現場で切望
名古屋大学は8月8日、新しく開発した放射線画像化装置を用い、粒子線がん治療に用いる炭素線の飛跡を照射中にリアルタイムで画像化することに成功したと発表した。この研究は、同大学院医学系研究科の山本誠一教授、量子科学技術研究開発機構高崎量子応用研究所の山口充孝主幹研究員、河地有木プロジェクトリーダー、兵庫県立粒子線医療センターの赤城卓博士らの研究チームが、東北大学金属材料研究所の吉川彰教授、鎌田圭准教授と共同で行ったもの。研究成果は、「Physics in Medicine and Biology」誌、および「Radiation Measurements」誌に掲載されている。
画像はリリースより
粒子線がん治療において、治療ビームの体内飛跡を治療中にモニタリングすることは、ビームが患者の腫瘍の正しい位置に照射が行われたかどうかを確認するために治療現場で切望されている。最も広く研究されている手法として、粒子線放射により生成される同位元素から瞬時に放出される高エネルギーガンマ線を画像化する方法があるが、十分な精度で画像化することは技術的に困難で、鮮明な画像を得ることは実現していない。研究グループは、山口主幹研究員らが考案した粒子線照射で生成する電子(2次電子)により発生する制動放射線(X線)を計測する手法に着目した。制動放射線はエネルギーが低く検出しやすいという利点がある一方、検出器の空間分解能を高めることが難しく、高エネルギーガンマ線がノイズとして検出される問題があった。そこで、高機能な低エネルギー放射線画像化検出器の開発を行うことになった。
実際の臨床治療時に照射する程度の炭素線粒子数を画像化
今回研究グループは、東北大学で研究開発された、薄いYAP(Ce)シンチレーターを位置有感型光電子増倍管(PSPMT)と組み合わせ、低エネルギー放射線画像化検出器を構成。この装置は、低エネルギーX線に対して極めて高い性能を有することがわかった。続いて、開発した検出器を高エネルギーガンマ線遮蔽容器に入れ、小さい穴のあいたコリメータを装着した低エネルギー制動放射線カメラを開発。これにはCCDカメラを一体化し、光学画像を撮影できるようにした。このカメラを用いて、炭素線を上方向から水を満たした容器に照射した時の制動放射線の画像を撮影したところ、極めて高い空間分解能で、かつ鮮明な粒子線の飛跡を画像化することに成功した。さらに、炭素線の臨床治験に用いられる程度の炭素線粒子数でも画像化できることがわかった。
今回の研究成果により、粒子線照射で発生する電子の制動放射画像化法が、粒子線治療の現場で利用できる可能性が極めて高いことが実証された。「装置の最適化を行うことで、十分に臨床現場で利用できる装置に発展させ、製品化とともに粒子線治療現場への広範な普及を進めたい」と、研究グループは述べている。
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