成長速度を考慮した胎児発育評価の検討が重要
東京医科歯科大学は8月5日、胎児の成長速度には生理的に多様性があることを初めて明らかにしたと発表した。この研究は、同大学難治疾患研究所分子疫学分野の佐藤憲子准教授と大学院医歯学総合研究科生殖機能 協関学分野の宮坂尚幸教授によるもの。研究成果は、国際科学誌「Scientific Reports」オンライン版に同日付で掲載された。
画像はリリースより
近年、加齢性慢性疾患(生活習慣病、心血管疾患など)の発症に、出生前環境が関与していることが多くの疫学研究によって明らかにされてきた。その基礎となったのは英国・バーカー博士の「壮年期の虚血性心疾患発症には、胎児期の栄養不足が影響していた」という報告であり、これは成人病胎児期起源説と呼ばれている。胎生期の発育環境良否の指標としてバーカー博士が出生体重を用いたことにより、その後出生体重は胎児期環境の質を示す指標として広く用いられてきたが、現在ではその限界も認識されている。胎児は、妊娠経過に依存した胎内環境の変化に応答して成長するため、成長の速度が本質的な発育のパラメータとなる。しかし、これまで成長速度を考慮した胎児発育の評価は行われておらず、周産期管理だけでなく、将来の慢性加齢性疾患の個別化予防の観点からも、それらを検討することが重要と考えられている。
妊娠30週以降に成長速度パターンの多様性を発見
研究グループは今回、日本人単胎妊娠を対象として超音波計測から推定される1人1人の胎児推定体重から週あたりの体重増加、すなわち速度を算出し、800人以上の時系列データを収集した。そしてそれらの成長速度軌跡は、全ての胎児に共通に一様なのか、それとも潜在的に異なるパターンが存在するのかを解析した。その結果、多くの胎児では妊娠30週以降、速度がほぼ一定になるのに対し、一部の児は加速または減速することが判明。この成長速度のパターンの違いは、既知の特定のリスクとは関係がなく、生理的な多様性であることが示唆された。さらに、これまで出生体重との関連が報告されていた母親の身長、BMI、経産歴、胎児の性は、それぞれ、妊娠期の特定の時期に胎児の成長に影響を及ぼすことも明らかとなった。しかし、成長速度の多様性は、これら既知の出生体重関連因子のみによって単純に説明できるものではないことがわかった。
これまでに、カスタマイズされた胎児発育評価の必要性は論じられてきたが、根本的には集団平均的な胎児発育曲線に準拠した方法の域を脱していなかった。成長速度に基づき胎児発育パターンの多様性を同定した今回の研究は、世界に先駆けた研究成果となる。「今回明らかになった成長速度の多様性は、胎児発育の質を評価する方法の改善に役立ち、将来的に先制医療実現化につながることが期待される」と、研究グループは述べている。
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