日本の研究グループとして初めて特定
国立国際医療研究センターは8月5日、これまでに国際輸血学会に登録されている36種類の血液型に加え、ヒトゲノム解析により37種類目の新たな血液型「KANNO(カノ)」を特定し、国際輸血学会の血液型命名委員会から認定を受けたと発表した。これは日本の研究グループが特定した初めての血液型となる。同研究は、同センター・ゲノム医科学プロジェクトの徳永勝士プロジェクト長、大前陽輔特任研究員らの研究グループによるもの。研究成果は「Transfusion」に掲載されている。
画像はリリースより
血液には多くの血液型があり、なかでもABO血液型とRh血液型は輸血の際に極めて重要な血液型だ。安全な移植や輸血のためにはその他の血液型も一致することが重要で、これまでに36種類の血液型が登録されている。血液型が不一致な場合には免疫応答が起こり、抗体が作られてしまうことから、輸血や妊娠の成立に影響が出ることもある。しかし、これまでの血液型では説明できない輸血不適合性を示す血液も存在し、その原因遺伝子はわかっていない。
1991年に福島県立医科大学附属病院で採られた血液が、既知の血液型とは異なる輸血不適合性を示し、暫定的にKANNO抗原を持たない血液としてKANNO(–)型と命名された。その後、同型による輸血不適合性は日本国内で十数例報告されたが、この血液型を作るKANNO抗原の本体については不明のままだった。
遺伝子変異E219K、日本人以外のアジア人集団で約5%存在
研究グループは、ゲノムワイド関連解析とエクソームシークエンス解析を行い、KANNO抗原を担う遺伝子の同定を目指した。その結果、調べたKANNO(–)型の18名全員のプリオンタンパク質である219番目のアミノ酸が、グルタミン酸(E)からリシン(K)に変化する遺伝子変異(E219K)を2本の染色体両方(ホモ接合)で持つことを見出した。さらに培養細胞でそれぞれの遺伝子を発現させると、KANNO(+)型プリオンに対してのみ抗KANNO血清(抗体)が結合した。すなわち、KANNO(–)型ではプリオンにE219Kの変異があり、グルタミン酸型プリオンに対する抗体を持つことが確認し、KANNOが新たな血液型抗原であることを確定したという。
今回、新たな血液型抗原として同定されたプリオンタンパク質は、ヒトでのクロイツフェルト・ヤコブ病(CJD)などのプリオン病の原因分子としてよく知られている。今回同定したE219Kの遺伝子変異は日本人以外のアジア人集団で5%程度の割合で存在し、数百人に1人がホモ接合で有することから、アジア人において移植や輸血のために重要なことが明らかとなった。この変異を1つの染色体に持つ場合(ヘテロ接合)にはCJDに強い抵抗性をもつため、この血液型とプリオン病との関連も注目される。さらに、今回の解析手法を用いて、既知の血液型と一致しない他の患者に適用することにより、新しい血液型が同定されていくことも期待されると研究グループは述べている。
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・国立国際医療研究センター(NCGM) プレスリリース