がん細胞異常増殖の仕組み、世界21機関の協力で解明
広島大学は8月2日、がんで著しく増大するGTP(グアノシン3リン酸)エネルギーが核小体肥大を引き起こすことを明らかにし、また、GTPエネルギーを遮断すると、がんが抑制されることもマウスを用いた実験で示したと発表した。この研究は、佐々木敦朗博士(米シンシナティ大准教授・広島大学客員教授・慶應義塾大学先端生命科学研究所特任教授)と広島大学の小藤智史助教、 慶應義塾大学先端生命科学研究所の曽我朋義教授、同大学医学部の佐谷秀行教授、末松誠客員教授ら国際研究チームによるもの。研究成果は、英学術誌「Nature Cell Biology」のオンライン速報版に掲載されている。
画像はリリースより
多くのがんに共通する変化として、核小体の肥大化があげられる。細胞には、DNAを包む核の中に小さな目(核小体)があり、その核小体はリボソーム(タンパク質を作る巨大なマシン)を作る工場で、多くの分子がリボソームを作るために働いている。1896年、多くのがんにおいて核小体が際立って大きくなっていることが発見された。また、その後の研究から、核小体が大きくなるとリボソームが多量に作られ、タンパク合成が増加するため、 それによってがん細胞が異常な速さで増殖することがわかっている。しかしながら、がん細胞がどのようにリボソーム産生工場を拡大しているのか、多くは謎となっていた。今回の研究では、日米英独の21研究機関が手を結び、最新の技術を結集することで、この謎への答えを導いた。
IMPDHで作られたGTPを使って核小体でリボソーム合成
細胞にはATP(アデノシン3リン酸)をはじめさまざまなエネルギーがある。研究グループは、悪性脳腫瘍、神経膠芽腫(グリオブラストーマ)のエネルギー産生経路を調べた。最新の代謝解析技術のより、悪性脳腫瘍において GTP(グアノシン3リン酸)と呼ばれるエネルギーの産生が著しく増加していることを示していた。さらに、このGTP産生の増加は、脳腫瘍組織をマウスやヒト検体を用いた多層的解析により、がん細胞でイノシン酸脱水素酵素(IMPDH)の量が増えることによって引き起こされるということをつきとめた。また、遺伝子の機能とネットワークを推測する新たな切り口の情報生物学解析は、IMPDHが核小体に深く関わっていることを示し、新しい代謝解析方法を考案することで、IMPDHにより作られたGTPが核小体でのリボソーム合成に使用されていることを示す重要なデータを得ることができた。
さらに、リボソーム研究を50年の間リードしてきたドイツのGerman Cancer Research Center のIngrid Grummt教授らの研究グループの協力によって、神経膠芽腫においてIMPDHがリボソーム合成の増大に重要な役割を果たしていることが初めて証明された。IMPDHを薬(ミコフェノール酸モフェチル)で阻害すると、核小体は小さくなり、グリオブラストーマの増殖が抑制されることが発見され、また、グリオブラストーマを移植したマウスで、IMPDHを抑制すると腫瘍の進行が遅延し、マウスが延命したという。核小体の作用の鍵を握るGTPエネルギー代謝のさらなる研究により、新たながん治療が開発されることが期待される。
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・広島大学 研究成果