がんや失明につながる血管新生メカニズムの全容は未解明
秋田大学は7月31日、血液中に含まれる生理活性脂質のリゾホスファジン酸(LPA)が血管形成に重要な役割を果たすことをメカニズムとともに明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科の石井聡教授と安田大恭助教らの研究グループによるもの。研究成果は「Journal of Clinical Investigation」に掲載されている。
全身に広く分布する血管は、血液や酸素、栄養素などを運ぶことに加え、さまざまな疾患の発症や増悪化に関わっている。既存の血管から新たな管腔形成がおこる血管新生では、さまざまな刺激に応じて血管内皮細胞が他の細胞と協調して、出芽・伸長・分岐を繰り返しながら、特徴的な血管ネットワークを作る。成体における病的な血管新生には、腫瘍や網膜の血管新生がある。腫瘍の新生血管は血液や酸素、栄養素などを運ぶことで腫瘍の増大や転移に寄与し、糖尿病網膜症や加齢黄斑変性などの時に現れる網膜の新生血管はもろいために容易に出血を起こして視力低下や失明の原因になる。病的な血管新生には、血管内皮細胞増殖因子(VEGF)をはじめとした種々の分子が作用すると考えられているが、メカニズムの全容は明らかになっていない。
LPA4とLPA6が協調的にDLL4の発現制御、血管新生促進
LPAは、さまざまな細胞の表面に存在する複数の受容体を介して多彩な生理機能を発揮する。今回の研究ではまず、培養ヒト血管内皮細胞にLPAの第4受容体(LPA4)と第6受容体(LPA6)のメッセンジャーRNAの発現があることを発見。そこでLPAでヒト血管内皮細胞のLPA4とLPA6を刺激したところ、両受容体からの細胞内シグナルは協調して働き、血管新生に重要な役割を果たすことが知られる分子「DLL4」の発現を抑制することを突き止めた。このDLL4の発現制御メカニズムは、今回初めて明らかになったもの。
続いて、血管新生におけるLPA4とLPA6の重要性を調べることを目的として、特異的に血管内皮細胞のLPA4とLPA6を二重に欠損したマウスを樹立して解析。その結果、二重欠損マウスの網膜では新生血管形成の低下が認められ、この異常がDLL4の過剰発現に起因することも併せて示された。
今回の研究で、血管内皮細胞のLPA4とLPA6は協調的にDLL4の発現を制御し、血管新生を促進することが明らかになった。今回の発見は、LPAの機能を妨げることにより腫瘍や網膜における病的な血管新生を減らして、がんの進展や失明のリスクを抑える可能性を示すものだという。「このメカニズムを基盤に、病的な血管新生を減らす方法を開発し「血管新生病」の治療法の確立につなげていきたい」と、研究グループは述べている。
▼関連リンク
・秋田大学 プレス発表資料