不整脈の発生部位の特定が困難だった従来の心電図
筑波大学は8月1日、株式会社日立製作所が開発した心磁図と心臓CT画像の合成技術をもとに、心臓CT画像から別途作成した心臓の3次元モデルを活用することにより、心室からの不整脈の発生部位を身体への負担なく高い精度で特定できることを明らかにしたと発表した。この研究は、同大医学医療系の家田真樹教授、野上昭彦教授、吉田健太郎准教授と、日立が共同で行ったもの。研究成果は、「JACC:Clinical Electrophysiology」で公開されている。
画像はリリースより
現在、不整脈の治療法として、太ももや手首からカテーテルを心臓まで入れて不整脈の発生部位を探し、その部位を焼灼する「高周波カテーテルアブレーション治療」が普及している。しかし、従来の心電図では、不整脈の発生部位を正確に特定することは難しく、治療の有効性や安全性に問題があった。
心電図以外に心臓の機能を検査できる装置として、磁場を計測することで心臓の電気活動を評価する心磁計がある。心磁計で得られる心磁図を心臓CT画像と合成する技術が2015年に日立で開発され、その後研究開発が進み、心臓の電気活動を優れた空間分解能で評価できる可能性が示唆されていた。そこで研究グループは、心磁図と心臓CT画像との合成画像が、心室期外収縮の不整脈発生部位の特定に有効か否かの検証を行った。
合成画像で緻密な不整脈治療計画が立案可能に
研究では、心室期外収縮に対してアブレーション治療を実施した患者18例を対象とした。まず、術前に日立が開発した画像合成技術を用いて、心磁データから作成した心臓に流れる電流の3次元分布画像(心磁図)と心臓CT画像を合成。電流強度が最大の位置は不整脈のきっかけとなる電気が発生している場所であり、この場所を不整脈の発生部位とした。さらに、心臓CT画像から別途作成した心臓の3次元モデルと、先ほど導いた不整脈の発生部位を合成することにより、不整脈が心臓内外のどこから発生しているかを視覚的にわかりやすく特定できる表示が得られた。
このようにして得られた不整脈の発生部位の正しさを検証するため、心臓の3次元モデルとの合成画像から特定した不整脈の発生部位と、アブレーション治療により得られた不整脈の発生部位を比較したところ、18例中17例(94%)で一致。また、従来技術の心電図では把握が困難だった、不整脈が心臓内外のどちら側で発生しているのかについても、合成画像により特定可能であることが示された。さらに、心臓CT画像には冠動脈が描画されているため、合成画像から不整脈の発生部位と冠動脈との位置関係を確認することができた。一方、心電図により不整脈の発生部位を特定したところ、アブレーション治療との一致は18例中10例(56%)だった。
今回の研究成果により、心磁図と心臓CT画像との合成画像を用いることで、心室期外収縮における不整脈の発生部位を、従来技術よりも高い精度で特定でき、冠動脈との位置関係や心臓内外のどちら側にあるのかを把握できることが明らかとなった。研究グループは、「アブレーション治療の前に、合成画像を用いて不整脈の発生部位を特定することによって、より緻密な治療計画が立案でき、患者負担の軽減に資することが期待される。今後、心室期外収縮よりも罹患率が高く、アブレーション治療の主要対象疾患である心房細動の治療に、本手法を応用していくことを計画している」と、述べている。
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