新療法、レンバチニブ先行投与後にTACEを追加
近畿大学は7月31日、これまで治療法が存在しなかった多発・大型肝がんでも特に進行した肝がん患者に対して分子標的薬・レンバチニブを先行投与した後に肝動脈塞栓療法(TACE)を追加するという新規治療法(LEN-TACE sequential治療)を考案し、1970年代に確立された標準治療法TACEと比較して生存期間を約2倍近く延長させることを世界で初めて証明したと発表した。この研究は、同大医学部内科学教室消化器内科部門の工藤正俊主任教授らの研究グループによるもの。研究成果は腫瘍学専門誌「Cancers」にオンライン掲載されている。
画像はリリースより
分子標的薬レンバチニブは、以前は唯一の進行肝がん治療薬とされていたソラフェニブに対し、初めて生存延長効果が非劣勢であることを示した唯一の分子標的薬。また、レンバチニブは進行肝がんに対して生存延長効果を示したうえ、腫瘍縮小・壊死効果にも優れ、奏効率(ORR)は40.6%と極めて高く、抗腫瘍効果が優れていると分かっていた。また、進行肝がんになる手前の脈管浸潤・遠隔転移のない多発・大型肝がんにおいて、進行期に対する標準治療法TACEの効果が悪く、TACEを行っても再発の繰り返しで肝機能を悪化させ死亡時期を早め、進行がん、末期がんに移行していく症例が多く見られた。このステージは全世界において治療に難渋する病態であり、いわば標準治療の存在しない未開の難治がんであるのが現状だ。
レンバチニブ先行投与群のORRは73.3%
研究グループは、レンバチニブの腫瘍縮小・壊死効果が高いことに着目し、脈管浸潤や遠隔転移のない進行がんになる前の多発・大型肝がんのステージにおいてあえてTACEを行わず、レンバチニブを先行投与した後TACEを行うことで、TACEの効果を高めるのではないかと仮説を立てた。検証のため、2008~2018年の期間、このステージの患者に初回治療としてレンバチニブを投与した37例を解析。同時期にTACEを施行した患者139例と治療効果について比較検討した。また患者背景を均一にする統計手法である傾向スコアマッチングを用いた結果、30例のレンバチニブ投与先行TACE群と60例のTACE単独治療群を抽出し、奏効率(ORR)、肝機能悪化の推移(ALBI score)、無増悪生存期間(PFS)、生存期間(OS)について比較検討を行った。
その結果、レンバチニブ先行投与群のORRは73.3%、TACE単独群のORRは33.3%。先行投与群では驚異的に高く、肝機能の悪化も有意に低く、またPFSも劇的にレンバチニブ先行群が優っていた(16.0か月: 3.0か月、ハザード比0.19, p<0.001)。OS延長効果はレンバチニブ先行群37.9か月、TACE単独群は21.3か月だった(ハザード比0.48, p<0.01)。また、レンバチニブ先行群の4例が完全奏効を示し、がん細胞が全て消失して治癒し現在、全く無治療で元気に経過観察している患者も出現した。ある程度進行した多発・大型肝がんでも完全治癒が期待できるという。
研究グループは、「これまで標準治療が存在しなかった領域における世界初の画期的な治療法の開発と位置付けられる」と、述べており、この新しい治療法は生存延長効果を証明したことにより世界の肝がんの治療体系を大きく変えることが予測される。
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