浸潤性乳がんなど166の唾液検体でメタボローム解析を実施
帝京大学は7月31日、唾液のメタボローム解析と人工知能(AI)を使って、高精度に乳がん患者を検出する方法を開発したと発表した。この研究は、同大医学部外科学講座の神野浩光教授が、東京医科大学低侵襲医療開発総合センターの杉本昌弘教授(慶應義塾大学先端生命科学研究所特任教授)、慶應義塾大学医学部外科学(一般・消化器)の林田哲専任講師らと共同で行ったもの。研究成果は「Springer Nature」に掲載されている。
研究グループは、これまでに生体内の代謝物を一斉に測定して定量するメタボローム解析を利用し、唾液を用いた疾患検出の可能性を研究してきた。今回は、浸潤性乳がん(invasive carcinoma:IC群)101症例、非浸潤性乳がん(ductal carcinoma in situ:DCIS群)23症例、健常者(healthy control:HC群)42症例、合計166の唾液検体を収集し、メタボローム解析を実施。メタボローム解析においては、ひとつの測定方法では測定できる物質数に限界があるため、キャピラリー電気泳動・飛行時間型質量分析装置と液体クロマトグラフィー・三連四重型質量分析装置の両装置を利用してできるだけ多くの水溶性代謝物を測定した。
画像はリリースより
約30物質、各群の間で濃度に違い
解析の結果、唾液中から260種類の物質を定量化でき、そのうちの約30物質は各群の間で濃度に違いがあることが統計的な評価によって明らかになったという。また、IC群において、代謝物の一種であるポリアミン類などの濃度がHC群と比較して高い一方、DCIS群ではこれらの物質の濃度の上昇はみられず、HC群と濃度が変動しないことが判明した。さらに、このうちIC群とHC群の間をもっとも高精度に識別する物質は、ROC曲線以下の面積において0.766(95%信頼区間;0.671-0.840)という精度を出したが、これらの物質群の濃度パターンをAIに学習させたところ、0.919(95%CI信頼区間;0.838-0.961)にまで精度を向上させることに成功した。
研究グループは、唾液の解析のみで高精度に乳健常者から乳がんを識別できることは、新しい検査方法として有望だと考えられるとした。今後は、より大規模な症例での検証が必要だが、他の疾患との比較なども含めてさらなる精度向上を目指すとともに、低コストな測定方法の開発を進めていくとしている。
▼関連リンク
・帝京大学 プレスリリース