骨格筋再生時、幹細胞を生み出す仕組みに着目
藤田医科大学は7月26日、線維芽細胞およびヒトiPS細胞から骨格筋の源となる骨格筋幹細胞を遺伝子操作により簡便かつ高効率に作製する新たなダイレクトリプログラミング技術を開発したと発表した。この研究は、同大の佐藤貴彦講師および京都府立医科大学の研究グループによるもの。研究成果は、「Stem Cell Reports」誌にオンライン掲載された。
画像はリリースより
人間の身体を動かすために必要になる骨格筋には、高い再生能力がある。筋が損傷するような運動をする、あるいは病気などで萎縮するときも、骨格筋特有の幹細胞(骨格筋幹細胞)が効率よく修復するために働いている。この幹細胞は通常、筋の修復が必要ない状態では増殖せず再生が必要になると活性化されるが、このとき骨格筋を新たに作るのと同時に、再び幹細胞を生み出して次の再生に備える、という仕組みがある。この仕組みを応用して、難治性筋疾患の一つである筋ジストロフィーなどでは幹細胞を移植し補充することで再生を促す治療の開発が期待されている。しかし、ヒトにおける骨格筋幹細胞を、どのように集めたらよいのかという大きな課題があった。
リプラミングに必須の4遺伝子を同定
研究グループはこれまでに、マウスを用いた実験で、骨格筋幹細胞の成り立ちや基本的な性質の解明や、この幹細胞を用いた難治性筋疾患である筋ジストロフィー治療への応用を目指してきた。特に成体の骨格筋幹細胞は、がん細胞と違って常に増殖しているわけではなく、再生時にだけ増殖して新たな骨格筋を作る。このときに、骨格筋幹細胞にPax3と呼ばれる転写因子が強く発現していることを明らかにし、このPax3を発現する幹細胞で発現する遺伝子を網羅的に調べてきた。
これまでの骨格筋誘導研究により、転写因子MyoDを発現した細胞は強制的に骨格筋細胞にリプログラミングされることが知られている。しかし、今回研究グループが実験で調べたところ、MyoDのみの強制発現ではPax3陽性の骨格筋幹細胞へは誘導出来ないことが明らかになった。そこで研究グループは、マウスPax3を発現する骨格筋幹細胞中で、Pax3以外に非常に強く発現する転写因子群を100近く同定。その中でも8つの遺伝子を同時にマウス線維芽細胞に強制発現させた場合にPax3陽性細胞へと直接リプログラミング可能になることが判明した。
さらに8つの遺伝子から絞り込んだ結果、試験管レベルで線維芽細胞から骨格筋幹細胞へと誘導する際には、PAX3、MYOD、HEYL、KLF4の4種が必須であり、MYODの短期的な発現上昇が骨格筋幹細胞を誘導するために必要であることが明らかとなった。(遺伝子名は、マウスの場合は一文字目のみ大文字、ヒトの場合は全て大文字)。
骨格筋細胞のジストロフィン発現回復に成功
最後に研究グループは、この手法を利用してマウスおよびヒト線維芽細胞、そしてヒトiPS細胞からPAX3陽性の骨格筋幹細胞を1か月間程度で誘導することに成功。この誘導型ヒト骨格筋幹細胞を筋ジストロフィーモデルマウスの下肢の骨格筋へ移植すると、再生筋への非常に高い生着能を示し、ジストロフィンの発現が劇的に回復することがわかった。一方、通常の試験管培養したヒト骨格筋細胞を用いてもほとんど筋再生に寄与しなかったという。
今回の結果でマウス、ヒトともに4種類の遺伝子を利用して骨格筋幹細胞を作製出来ることが明らかとなったが、今後は遺伝子の強制発現方法や長期的観察により生体内でこれらの移植細胞が悪影響を及ぼさないかなどの調査を進めていく必要がある。研究グループは、「幹細胞を用いた治療や筋萎縮の予防等に貢献できるよう、誘導型ヒト骨格筋幹細胞を大量に増殖培養する技術開発を目指したい」と、述べている。
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・藤田医科大学 プレスリリース