人体により近い3次元培養で膵がん細胞の形態と機能を解析
東京都健康長寿医療センター研究所は7月29日、膵がん研究における3次元培養の重要性を明らかにしたと発表した。この研究は、老年病理学研究チーム(高齢者がん研究)の志智優樹研究生(日本獣医生命科学大学)、老年病態研究チーム(心血管老化再生医学)の佐々木紀彦研究員、老年病理学研究チーム(高齢者がん研究)の石渡俊行研究部長らの研究グループによるもの。研究成果は、英国の電子版科学雑誌「Scientific Reports」に掲載されている。
画像はリリースより
膵がんは高齢者に多く発症するがんで早期発見が難しく、手術以外に完治につながる治療法がないことから、難治性のがんといわれている。超高齢社会の日本で膵がんは男女ともに急増しているが、膵がんがさまざまな形態や性質のがん細胞から構成されているため、人の体内で膵がんがどのように増えたり転移したりするのかは解明されていない。そこで研究グループは、膵がん細胞を立体的に培養(3次元培養)し、人体内に類似した環境で膵がん細胞の形態と機能的な特徴を解析した。
3次元培養で、膵がん細胞の上皮間葉系性質の違いが明瞭に
解析の結果は次の通り。通常の接着培養下で膵がん細胞には、上皮様の性質を示すがん細胞と、間葉系の性質を示すがん細胞の2種類が存在することが判明。上皮様の膵がん細胞は3次元培養で、球形の浮遊細胞塊(スフェア)を形成し、表面を覆う扁平ながん細胞が認められた。また、上皮様の膵がん細胞には分泌顆粒や微絨毛が多く、サイトケラチン7、トリプシンなどを発現しており、正常の膵臓細胞への分化がみられた。細胞増殖マーカーのKi-67はスフェア周囲を被覆する扁平ながん細胞にのみ認められ、増殖極性が確認された。
3次元培養で、間葉系の性質を示す膵がん細胞は不整形のスフェアを形成。分化成熟傾向は乏しく、Ki-67陽性細胞はスフェア全体にびまん性に分布し増殖の極性は認められなかった。また、上皮様性質を示す膵がん細胞のPK-1細胞は、Smad4が免疫染色で陰性で、TGF-β1の投与により上皮間葉転換(EMT)が誘導されなかったが、間葉系性質を示す膵がん細胞のPANC-1細胞は、Smad4が陽性で、TGF-β1投与によりEMTが誘導された。
以上の結果により、膵がん細胞の上皮間葉系性質の違いが、3次元培養により明瞭になった。「膵がん細胞の上皮様形態と機能の保持には、TGF-βシグナル伝達系が関与していることが示唆された。3次元培養を用いた研究は、多様性を有する膵がんの個別診断や、個別治療法の開発に有用であることが明らかになった」と、研究グループは述べている。
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