ディーゼルエンジン排気微粒子で研究
広島大学は7月25日、PM2.5 に含まれる多環芳香族炭化水素が肺胞マクロファージに作用し、インターロイキン33(IL-33)の産生を介して炎症反応を増悪させることを明らかにしたと発表した。この研究は、同大学大学院統合生命科学研究科の石原康宏准教授、カリフォルニア大学デービス校のChristoph Vogel博士、Norman Kado博士、ドイツライプニッツ環境医学研究所のThomas Haarmann-Stemmann博士らから成る3か国間国際共同研究グループによるもの。
画像はリリースより
焼却炉等のばい煙や自動車の排気ガス、火山煙などを発生源とするPM2.5(大気中に浮遊している直径2.5μm以下の粒子)は、吸入すると肺の奥深くまで達するために呼吸器系への影響が懸念されており、易感染性や肺機能低下、ぜんそくの発症・悪化の素因となることが報告されてきた。しかし、PM2.5の呼吸器影響に関する分子メカニズムはほとんどわかっていなかった。
PM2.5の中でもディーゼルエンジン排気微粒子は、多環芳香族炭化水素と呼ばれる化学物質群を多く含み、多環芳香族炭化水素の受容体である芳香族炭化水素受容体(AhR)は、炎症反応を引き起こすことがわかっている、そこで今回の研究では、PM2.5のうちディーゼルエンジン排気微粒子による呼吸器影響メカニズムを調べた。
PM2.5は肺胞マクロファージを活性化、IL-33産生で炎症惹起
肺には「肺胞マクロファージ」が存在し、異物の除去や感染防御に働いている。研究グループは、培養したヒトマクロファージをPM2.5に曝露すると、炎症性サイトカインの1つであるIL-33の発現が大きく上昇することを見出した。 また、炎症を起こした(活性化した)マクロファージでは、PM2.5によるIL-33誘導能が強まっていることも示した。
PM2.5にはフェナントレンやベンゾピレンなど、複数のベンゼン環をもつ多環芳香族炭化水素が多く含まれる。また、多環芳香族炭化水素は、生体内に取り込まれると、AhRに結合することが知られていた。そこで、マクロファージのAhRを刺激したところ、PM2.5の暴露と同様にIL-33の発現が上昇。IL-33のプロモーター領域をコンピューター上で解析したところ、異物応答配列と呼ばれる領域が存在し、活性化したAhRがIL-33プロモーター領域の異物応答配列に結合し、IL-33の転写を促進することも明らかとなった。
IL-33は好塩基球、抗酸球やマスト細胞といったアレルギー性炎症のキープレイヤーとなる細胞群を刺激することが知られている。また、ゲノム解析によりIL-33の変異がぜんそくと関連すること、さらに、ぜんそく患者の肺ではIL-33の発現が上昇していることも報告されている。従って、PM2.5はAhRを介してマクロファージからIL-33の放出を促し、その結果、アレルギー性炎症が増悪してぜんそくが悪化すると、研究グループは考察している。
今回の研究がさらに進展することにより、PM2.5曝露に対するハイリスク群の推定や PM2.5曝露による呼吸器炎症の抑制戦略の策定につながる可能性がある。また、「PM2.5 に関する環境基準やガイドライン等、環境行政ならびに公衆衛生行政政策に貢献できる」と、研究グループは述べている。
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