皮膚の白色脂肪細胞と褐色脂肪細胞の分化を制御
神戸大学は7月25日、表皮角化細胞から分泌されるタンパク質が、肥満に関与する皮膚の白色脂肪細胞と褐色脂肪細胞の分化を制御することを発見したと発表した。この研究は、同大バイオシグナル総合研究センターの上山健彦准教授と齋藤尚亮教授の研究グループによるもの。研究成果は「Journal of Investigative Dermatology」に掲載されている。
画像はリリースより
脂肪細胞には、エネルギーを蓄え肥満に関与する「白色脂肪細胞」と、エネルギーを消費し抗肥満作用のある「褐色脂肪細胞」という、2つのタイプの脂肪細胞が存在することがわかっている。近年、適切な処置により、白色脂肪細胞が褐色脂肪細胞に変化する現象(ブラウニング)が発見され、現代病でもある肥満症の治療法のひとつとして有望視されている。
一方で、以前より皮下脂肪細胞から表皮角化細胞への分化促進シグナルが報告されている。しかし、皮膚角化細胞から皮膚脂肪細胞への逆方向のシグナルの存在は、提唱されてはいたものの確固たる報告はなかった。
表皮角化細胞がBMP2とFGF21を分泌、皮下脂肪細胞量調節
研究グループは、病気の原因を追究し治療法を開発するため、種々の遺伝子操作マウスを作製。このうち、皮膚の角化細胞でのみRac分子が欠損するマウスが、著明に薄い皮膚(皮下)脂肪層を呈することを発見した。
そこで、表皮角化細胞から皮膚脂肪細胞への分泌タンパク質による分化シグナルの存在を考え、この欠損マウスの遺伝子の網羅的解析を行い野生型(正常)マウスと比較したところ、6つの増殖因子タンパク質が欠損マウスで顕著に低下していることを突きとめた。これらの6増殖因子を脂肪前駆細胞に処置することでその効果を確認したところ、このうちBMP2とFGF21の同時処置のみが、白色脂肪細胞への分化を促進し、加えて、褐色脂肪細胞への分化を抑制することを発見。このBMP2とFGF21の効果は、ヒト由来の皮膚角化細胞の培養液により代用することができた。このことから、ヒトの皮膚角化細胞から分泌される増殖因子タンパク質が、脂肪細胞の分化に関与することが証明された。
以前より、FGF21が褐色脂肪細胞の分化を亢進することは知られていたが、今回の研究で、BMP2には褐色脂肪細胞の分化抑制作用があることを新たに発見した。これは、BMP2を抑制すれば、白色脂肪細胞の減少に加え、褐色脂肪細胞増加を導けるということを意味する。さらに、BMP2とFGF21の同時処置が、ヒト皮膚から分離した線維芽細胞(脂肪前駆細胞を生み出す能力を有する多能性細胞)を脂肪細胞へ分化誘導することも明らかにした。
抗肥満効果を発揮するクリーム剤開発の可能性
今回の研究で、表皮角化細胞から皮膚脂肪細胞への従来の報告とは逆方向で、増殖因子タンパク質の傍分泌(パラクライン)機序による分化シグナル(BMP2とFGF21による)が存在することを証明し、表皮と皮下脂肪細胞間には、双方向性の傍分泌による分化シグナルが存在することを明らかにした。さらに、表皮から皮膚及び皮下脂肪層への分化シグナルの制御により、皮下脂肪細胞の種類/構成を変化させる可能性を示した。
研究グループは、「表皮角化細胞からBMP2とFGF21が分泌され、皮下脂肪細胞量を調節していることがわかったため、皮膚からのアプローチにより、抗肥満効果を発揮できる、具体的には皮膚から吸収できるクリーム剤の開発により、簡便で安全性の高い肥満治療が実現できる可能性がある」と、述べている。
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