細胞内の老廃物分解酵素アリールスルファターゼAが関与していると予測
順天堂大学は7月24日、難病ライソゾーム病の原因となる細胞内の老廃物分解酵素のアリールスルファターゼAが、難病パーキンソン病の疾患修飾因子であることを発見したと発表した。この研究は、同大大学院医学研究科神経学の服部信孝教授、金井数明客員准教授、韓国のソウル大学校医科大学のSeung-Jae Lee教授らの国際共同研究グループによるもの。研究成果は、英国科学雑誌「Brain」に掲載された。
画像はリリースより
パーキンソン病は手足のふるえや身体の動かしづらさなどの症状が出る神経難病。研究グループは以前、同疾患の遺伝背景を探る過程において、難病ライソゾーム病のひとつである異染性白質ジストロフィー患者の近親に、パーキンソン病患者が複数いる家系を特定していた。
ライソゾーム病は、6割の患者にパーキンソン症状などの神経症状が出ること、原因遺伝子のひとつGBA遺伝子がパーキンソン病の発症リスクとなるなどの理由から、パーキンソン病とライソゾーム病との関連が強いことがわかってきている。そこで今回、異染性白質ジストロフィーの原因遺伝子で細胞内の老廃物を分解する酵素「アリールスルファターゼA」がパーキンソン病に直接関与していると予測し、検証を行った。
神経難病の新しい診断・治療薬となる可能性
研究グループは、異染性白質ジストロフィー患者で近親がパーキンソン病を発症している家系の遺伝子検査を実施。パーキンソン病を発症している人のアリールスルファターゼA遺伝子にはL300Sという遺伝子変異があり、異染性白質ジストロフィー患者のアリールスルファターゼA遺伝子にはL300Sに加え、C174Yという2つの遺伝子変異があることを発見した。パーキンソン病には認知症を合併するタイプがあり、この家系では、軽度の認知症を合併していたという。また、アリールスルファターゼAの量がアルツハイマー病患者で減っているという報告があることから、認知症を合併するタイプのパーキンソン病と合併しないタイプのパーキンソン病の患者を比較して血液中のアリールスルファターゼAを調べた結果、認知症を合併するタイプのパーキンソン病患者ではアリールスルファターゼAの量が減っていることがわかったという。
次に、184人のパーキンソン病患者と約3,000人の健康な人で、アリールスルファターゼA遺伝子の配列を比較。その結果、N352Sという遺伝子多型をもつ人は、パーキンソン病になりにくいことを発見した。パーキンソン病はレビー小体が脳内にできることで知られているが、レビー小体はαシヌクレインというタンパク質が集まって固まったもので、パーキンソン病はαシヌクレインの変化が原因のひとつと考えられている。今回発見したアリールスルファターゼA遺伝子のL300SとN352Sの2種類のタイプによるαシヌクレインの変化を、培養細胞を使って詳しく調べた結果、パーキンソン病を発症させるアリールスルファターゼA L300S(悪玉)は、細胞質内でαシヌクレインと結合しづらいことでαシヌクレインの凝集を促進。一方、パーキンソン病に保護的なアリールスルファターゼA N352S(善玉)は、αシヌクレインと強く結合することにより、αシヌクレインの凝集を抑制することが判明した。さらに、パーキンソン病を発症させる悪玉をもつショウジョウバエは、加齢とともに運動能力が低下することも発見した。
アリールスルファターゼAは、細胞内小器官のライソゾームの中で不要物の分解と物質の代謝に働く酵素だが、今回の研究では、ライソゾームの外の細胞質内での働きがパーキンソン病の発症と関係していることが明らかになった。このことから、アリールスルファターゼA以外のライソゾーム病の原因遺伝子でもライソゾームの外での働きに注目して詳しく調べる必要がある。一方、アリールスルファターゼAの血中の量と認知症の程度の関係が明らかになったことから、認知症に対する早期バイオマーカーや診断薬となる可能性がある。さらに、善玉アリールスルファターゼAの量を増やすことで、パーキンソン病や認知症が改善する治療薬の開発につながる可能性があると、研究グループは述べている。
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