1台で幅広いエネルギー範囲のガンマ線を複数同時に識別し測定
群馬大学は7月24日、医療用コンプトンカメラの開発し、世界で初めてとなる臨床試験に成功したと発表した。この研究は、同大重粒子線医学推進機構の中野隆史特別教授らと、量子科学技術研究開発機構の河地有木プロジェクトリーダーら、東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構の高橋忠幸教授および宇宙航空研究開発研究機構(JAXA)渡辺伸助教らのグループとの共同研究によるもの。研究成果は、国際学術誌「Physics in Medicine and Biology」オンラインに掲載されている。
画像はリリースより
現在、がんの診断や臓器の機能検査を行うためには、PET(陽電子放射断層撮影装置)やSPECT(単一光子放射断層撮影装置)が必要不可欠となっている。しかし、これらには性能的にいくつかの限界がある。例えば、PETは特定のエネルギーのガンマ線を出す陽電子放出核種しか測定できず、SPECTは金属製のコリメータの放射線遮蔽能力の制約から、低いエネルギーのガンマ線しか利用されていない。
そこで研究グループは、新たな画像診断機器として、1台で幅広いエネルギー範囲のガンマ線を複数・同時に識別して測定可能な「医療用コンプトンカメラ」試験機の開発を行った。
1000keV以上のエネルギーを持つガンマ線も測定
今回の研究で使用したコンプトンカメラは、JAXAが中心となって宇宙観測用(遠距離、低イベント率)に開発した技術を転用し、近距離、高イベント率の環境に応用している。シリコン(Si)とテルル化カドミウム(CdTe)の半導体を、放射線検出素子として用いることで、放射線識別用のコリメータを必要とせず、広いエネルギー範囲のガンマ線を精度よく識別しながら、効率よく検出することが可能。
医療目的での開発のポイントは、「コンプトンカメラから30cm程度の近距離にある」「複雑な形状の測定対象(臓器や病変部)から放出される高強度のガンマ線をイメージングできる」「医療で汎用的に利用されている140~511keVまでのエネルギー範囲のガンマ線が計測できる」「高いエネルギー分解能と空間分解能を併せ持つこと」である。これまでマウスなどの小動物を用いた測定については多数の報告があったものの、臨床試験が実施された例はなかった。
今回のコンプトンカメラを用いた世界初の臨床試験では、最も汎用的なPET薬剤である18F-FDG(フルオロデオキシグルコース)と、腎機能検査で一般的に使用されるSPECT薬剤である99mTc-DMSA(2,3-ジメルカプトコハク酸)の2薬剤を被験者に同時投与した。この2種類のエネルギーを持つガンマ線を同時に測定した結果、18F-FDGで肝臓を、99mTc-DMSAで腎臓を、二次元画像として同時に可視化することに成功。これにより、従来PETおよびSPECTによる2つの画像診断を、1台のコンプトンカメラで実現できることが実証できたといえる。
現在の検査・診断では、個別の薬剤を個別の装置で測定する必要があるため、長い期間を要していたが、コンプトンカメラが実用化されれば、2種類以上の放射性薬剤による同時測定が可能となり、検査期間の大幅な短縮が可能となる。また、複数薬剤の検査を組み合わせることにより、新たな臓器機能検査の発展が期待される。さらに、コンプトンカメラは1000keV以上のエネルギーを持つガンマ線も測定できることから、医療に利用できるエネルギー範囲の制限が大幅に拡大される。
研究グループは、「これまでの核医学の分野で使用されていなかった放射性同位元素を用いた全く新しい診断薬や、それらを用いる新規の診断手法の開発につながり、これまでにない診断・治療技術の展開が期待される」と、述べている。
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