別個の疾患と考えられていたNIID、OPML、OPDMの3疾患
日本医療研究開発機構(AMED)は7月23日、神経核内封入体病、白質脳症を伴う眼咽頭型ミオパチー、眼咽頭遠位型ミオパチーと呼ばれる3疾患に、共通する原因遺伝子を発見したと発表した。この研究は、東京大学医学部附属病院22世紀医療センター分子神経学講座の辻省次特任教授、同大医学部附属病院脳神経内科の石浦浩之助教、同大大学院新領域創成科学研究科メディカル情報生命専攻情報生命科学の森下真一教授らによるもの。研究成果は、国際科学誌「Nature Genetics」に掲載された。
画像はリリースより
神経核内封入体病(neuronal intranuclear inclusion disease:NIID)は、近年、認知症を呈する神経変性疾患の一つとして注目されており、発症年齢は幼少期から高齢まで幅広く分布する。これまでの研究により、約2/3の症例は孤発例で、一部に常染色体優性遺伝と考えられる家系例が存在することが知られていたが、その原因は明らかではなかった。
白質脳症を伴う眼咽頭型ミオパチー(OPML)は、頭部MRI画像で神経核内封入体病に類似した大脳白質の異常を示し、加えて眼球の運動を司る筋肉、嚥下・発声を担う咽頭の筋肉、四肢の筋肉を侵す疾患。研究グループは、新規疾患として同疾患の1家系を見出し、発症者の全ゲノム解析から、LOC642361・NUTM2B-AS1という別の遺伝子に、同じCGG繰り返し配列の異常伸長が存在することを発見していた。
眼咽頭遠位型ミオパチー(OPDM)は、眼球運動、咽頭、さらに四肢の遠位部の筋力低下が特徴的な筋疾患で、国が定める指定難病の一つである、遠位型ミオパチーに含まれる疾患。前述のOPMLと筋の罹患部位の分布が非常に類似している。この疾患も、多くは孤発例であり、ときに家族例(多くは常染色体優性遺伝と考えられる)が報告されていたが、原因遺伝子は明らかではなかった。
3疾患の原因遺伝子に共通するCGG繰り返し配列の異常伸長を発見
研究グループは、NIIDが、遺伝性疾患の脆弱X関連振戦失調症候群(fragile X tremor/ataxia syndrome:FXTAS)と、臨床症状、病理学的所見、頭部MRI所見が類似していることに着目。FXTASは、FMR1遺伝子の5’非翻訳領域に存在するCGG繰り返し配列の異常伸長(55~200回繰り返し)によって生じることが以前から知られており、同様の非翻訳領域のCGG繰り返し配列の異常伸長が別の遺伝子に存在する可能性を考え研究を開始した。
現在汎用されている次世代シーケンサーでは、繰り返し配列の異常伸長の検出が困難だったが、今回の研究では「TRhist」という繰り返し配列の異常伸長を効率よく見つけ出すプログラムを開発し、研究を進めた。まず、NIIDの4症例について全ゲノム配列解析を行い、TRhistプログラムを用いて、直接CGG繰り返し配列の異常伸長配列を探索したところ、4例全てで1番染色体に存在するNBPF19遺伝子(別名 NOTCH2NLC遺伝子)の5’非翻訳領域に存在するCGG繰り返し配列が異常伸長していることを発見。症例数を増やして、発症者に共通してこの異常伸長が観察されるかを調べた結果、NIIDと考えられた14家系および12例の孤発例で異常伸長の存在を確認した。このときの繰り返し配列は、およそ90~180回の長さだった。一方、健常者1,000名においては、50回繰り返しを超えることはなかった。さらに、1分子ロングリードシーケンサーを用いて、異常伸長したCGG繰り返し配列の全体像の解読に成功した。この変異は、2名のマレーシア人患者においても見出され、日本人だけでなく、海外でもその疾患の存在が確認された。
次に、OPMLの1家系について、NIIDと類似した特徴的な頭部MRI拡散強調像の所見が存在することから、別の遺伝子にCGG繰り返し配列の異常伸長が存在する可能性を考え、全ゲノム配列解析のデータを解析した。その結果、10番染色体にCGG繰り返し配列の異常伸長を発見。この部位では、LOC642361とNUTM2B-AS1という2つの、翻訳領域の存在しない遺伝子が両方向性に転写されていた。家系内の発症者4名でCGG繰り返し配列の異常伸長を認め、家系内の非発症者7名と健常者1,000名では異常伸長を認めなかった。
最後に、OPDM家系について、筋肉の罹患部位が、上記のOPMLと類似していることから、同様のCGG繰り返し配列が別の遺伝子に存在する可能性を考えた。その結果、LRP12遺伝子の5’非翻訳領域にCGG繰り返し配列の異常伸長が存在することを発見。国立精神・神経医療研究センターとの共同解析により、同センターで収集した100家系を含めて、合計107症例について検討したところ、筋病理学的に特徴的な縁取り空胞が認められたOPDM症例の38.2%、筋生検がなされていない臨床診断例の16.7%で、同遺伝子内のCGG繰り返し配列の異常伸長が認められた。健常者1,000名では、繰り返し配列の異常伸長が認められたのは0.2%であり、OPDM症例において有意に高頻度で認められることがわかった。
研究グループは、「3疾患の原因遺伝子に共通するCGG繰り返し配列の異常伸長が神経疾患の病態を引き起こす可能性が示されたことから、今後は、伸長繰り返し配列を有するRNAを減少させる薬の開発など、新しい治療法の開発が進むと期待される」と、述べている。
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・日本医療研究開発機構(AMED) プレスリリース