敗血症、膠芽腫などに対する有効な治療薬となる可能性
東京理科大学は7月16日、血管拡張、抗けいれん薬「パパベリン」に、抗炎症、抗がん作用があることを発見したと発表した。この研究は、同大学の田沼靖一教授率いる研究グループによるもの。研究成果は、「Biochemical and Biophysical Research Communications(BBRC)」、「PLOS ONE」にオンライン掲載されている。
画像はリリースより
この研究の背景には、敗血症を根治する有効な治療薬、膠芽腫に対する有効な治療薬がないという現実がある。敗血症は、急性の感染症や傷によって起こる症状で、特に高齢者では深刻な課題となっている。また、非常に進行の速い悪性の脳腫瘍である膠芽腫(GBM)も、抗がん剤に耐性ができてしまうため、有効な治療薬がほとんどないのが現状だ。田沼教授らのグループは、炎症のプロセスにより産み出されるHMGB1(high-mobility group box 1)と、特異的な細胞膜受容体RAGE (receptor for advanced glycation end-products)の相互作用を阻害する化合物が見つかれば、炎症を抑える薬剤になり得るのではないかと考え、研究を進めた。
研究グループは、タンパク質間相互作用(PPI)を標的としたin silico創薬手法(ソフトウェア「COSMOS」)を開発した。HMGB1内のRAGE結合領域として、14アミノ酸残基のペプチドを同定し、さらにそれを最適化した環状ペプチド「Pepb2」を分子設計。そして、Pepb2がHMGB1とRAGEとの結合を「競合的に阻害」することを実験的に証明した。次に、「DrugBank」という薬剤データベースの中に、Pepb2と似た構造をもった薬剤があるかどうかをin silicoスクリーニング。その結果、ケシの実から抽出されたパパベリンが見つかった。さらに、そのペプチド構造類似性解析から、一般的な抗けいれん薬である「パパベリン」に、HMGB1のRAGEへの結合を阻害し、抗炎症、抗がんなどの新規の薬効があることを発見。また、マウスを用いた実験により、敗血症や膠芽腫などに有効な治療薬となり得ることを示した。
既存薬の再開発による適応拡大、新薬開発のリードにも
このようなin silico創薬手法と「ドラッグリポジショニング(既存薬再開発)」との組み合わせ法は、安全性が確認された既存の薬剤に、まだ知られていない薬効があることを見出すのに有効だ。全く新規に新薬を開発するよりも、時間面、コスト面、安全性面で非常に効率よく、既存薬を新たな治療に適応拡大することが可能にし、新薬開発のリードともなる。
研究グループは、「次のステップとしては、ヒトの体内でパパベリンが、どの程度HMGB1-RAGE相互作用を阻害するのか、調べることだ。今私たちは、もっと効果的な薬剤をデザインするために、パパベリンの構造を改変させて最適化することを試みているところだ」と、述べている。
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・東京理科大学 プレスリリース