国際宇宙ステーション「きぼう」で宇宙実験を実施
金沢大学は7月22日、宇宙空間で引き起こされる骨吸収がメラトニンにより抑制されることを明らかにしたと発表した。この研究は、同大環日本海域環境研究センターの鈴木信雄教授、東京医科歯科大学教養部の服部淳彦教授、岡山大学大学院医歯薬学総合研究科の池亀美華准教授、富山大学研究推進機構の田渕圭章教授らの共同研究グループによるもの。研究成果は、「Journal of Pineal Research」に7月19日付で掲載された。
画像はリリースより
骨の成長や維持には刺激が必要であり、重力のない宇宙では,骨からカルシウムが抜けて骨量が低下する。長期宇宙滞在の前後で宇宙飛行士の骨密度を計測すると、骨成分が失われることがわかっている。宇宙飛行士が国際宇宙ステーションで長期滞在する時代を迎え、この問題を解決するために、骨芽細胞と破骨細胞が微小重力下でどのような挙動を示すのかを明らかにするとともに、その治療薬に関する研究が求められている。しかし、宇宙空間では生体内の状態を維持したままの培養系を用いることが難しいことから、優れた実験モデルが切望されていた。
研究グループはこれまでに、骨のモデルとしてキンギョのウロコを用いて、概日リズムを調節するホルモンであるメラトニンが破骨細胞の活性を抑制することを初めて見出していた。そこで、宇宙飛行士に引き起こされる破骨細胞の活性化による骨量の低下に対し、メラトニンが効くと考えられることから、国際宇宙ステーション「きぼう」日本実験棟において宇宙実験を行うことにした。
メラトニンはRankl抑制、カルシトニン正常化で骨吸収抑制
魚からウロコを抜くと、ウロコは再生する。今回の研究では、骨芽細胞と破骨細胞が高い活性をもって共存し、哺乳類の骨と同様のホルモン応答を示すキンギョの再生ウロコを骨モデルとして用いた宇宙実験を実施。まず、ウロコの骨芽細胞でメラトニンが作られるとともに、宇宙空間ではアセチルセロトニン-O-メチルトランスフェラーゼという酵素の発現が低下することにより、メラトニンの合成が低下することを明らかにした。そこで、メラトニンを添加した培地と無添加の培地でウロコを培養し、宇宙空間におけるメラトニンの作用を比較した。その結果、メラトニン無添加の培地では、わずか3日間の培養でいくつもの破骨細胞が融合して多核化の活性型の破骨細胞になり、その破骨細胞がウロコにある骨質層の溝の幅を広げ、ウロコの骨吸収を促進していることが判明。さらに、骨吸収を促進する因子であるRanklの遺伝子発現が上昇し、骨吸収を抑制するホルモンであるカルシトニンの遺伝子発現を抑制することもわかった。一方で、メラトニンを添加した培地で培養すると、Ranklの発現が抑制され、カルシトニンの発現が正常に戻ることが明らかになった。
これまで宇宙空間においてメラトニンが低下することを調べた研究はなく、宇宙でメラトニンが低下して、カルシトニンの分泌が抑制されることが微小重力下での骨吸収を促進させる機構のひとつである可能性が高いと研究グループは考察している。この研究は、メラトニンが宇宙飛行中の宇宙飛行士の骨量減少を防ぐ予防薬として使用できる可能性を示しており、将来、宇宙飛行士への骨の予防・治療薬に活用されることが期待される。さらに研究グループは、新規メラトニン誘導体のウロコに対する作用を調べる宇宙実験も行っており、骨疾患の新薬の開発が期待される。
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