人の肺や皮膚にNTM症を引き起こす病原体を検出する
大阪大学は7月17日、これまで詳細な同定が困難であった非結核性抗酸菌(NTM:Non-Tuberculous Mycobacteria)の正確かつ迅速な同定手法を新たに開発したことを発表した。この研究は、同大微生物病研究所松本悠希特任研究員(常勤)と中村昇太特任准教授(常勤)らと、琉球大学大学院医学研究科の金城武士助教らと共同研究グループによるもの。研究成果は、英国科学誌「Emerging Microbes & Infections」オンライン版に掲載された。
画像はリリースより
NTMとは、マイコバクテリウム属細菌のうち、結核を引き起こす結核菌群、ハンセン病の原因となるらい菌を除いた種の総称。さまざまな感染症を引き起こすことが知られている。主に呼吸器感染症を引き起こし(肺NTM症)、日本を含め世界的にその罹患率の増加が報告されている。結核、ハンセン病については予防法や治療法が確立されているのに対し、NTM症にはいずれの対策も十分に確立されていない。菌種・亜種ごとに治療方針が異なり、適切な治療を行うためには亜種レベルでの正確な同定が必要となるが、多種多様なNTMの亜種を正確に同定できる方法はこれまで存在していなかった。
10分程度で、175種にも及ぶNTMの正確な同定が可能
今回、同研究グループは、複数の遺伝子の塩基配列を同定に用いる方法MLST(Multi-Locus Sequence Typing)を、マイコバクテリウム属細菌の同定に応用することで、極めて高速・高精度な同定を可能にする手法を新たに開発。これにより、10分程度のシーケンスで得られるごく少量のデータから、175種にもおよぶNTMの正確な同定が可能となった。また、NTM症患者から分離されたNTMについて、従来の手法では同定できなかった16株を含む29株すべてを亜種レベルまで同定することに成功した。
この研究結果により、NTMが正確に同定され、NTM症患者は病原体に応じた適切な治療を受けられるようになることが期待される。また、同定にかかる時間が劇的に短縮される可能性があり、NTM症の早期発見による予防や新たな治療方法の確立へ貢献することも期待される。さらに、肺NTM症の中でも特に難治性で、近年日本で増加しているM.abscessus症についても、今回の成果により同定が可能になった。
同グループは「NTMは我々の非常に身近な水場や土壌にも生息しているため、感染のリスクはどうしても避けられない。NTMはとても強固な細胞壁を持っているため、抗生物質に強い耐性を示すものが多く、一度症状が進行してしまうと、完治まで非常に長い時間がかかることが知られている。本研究の成果の応用がNTM症の早期発見に繋がり、患者の皆さまの治療に生かされることを期待する」と、述べている。
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